転生したら驚いた!(5)
続いて俺たちは、また『池』のようなものがあるエリアに出くわした。
だが、天然自然の『池』ではない。明らかに人工物だ。
黒くて、大きくて、丸い、金属製の容器。
一つでも人間が数人は入れるくらいなのに、同じものが、いくつも用意されていた。
それぞれの中には、たっぷりと水が張られている。しかも金属容器の下には、燃え盛る業火。容器の水は、グツグツと煮立っていた。
「五右衛門風呂……」
そんな言葉が頭に浮かび、思わず、口から飛び出してしまう。
「ほう。テツオ君は、案外、昔の道具も知っているのだな」
「いやいや、あれは風呂って温度じゃないぜ?」
シローとセイロクから、そんなことを言われてしまった。
別に俺は、五右衛門風呂なんて入ったことも見たこともない。ただ、そういう単語だけ Web小説か何かで目にしたことがあって「きっと、こんな感じだろう」と思い描いていただけだ。
それに、目の前のシロモノが「いい湯だな、アハハン体験!」とは程遠いことくらい、俺にも一目瞭然だった。
「それより……。湯加減よりも、もっと大きな問題があるでしょう?」
ミキお姉さんにも、指摘されてしまった。
そう。
その場にあったのは、熱湯風呂だけではない。
金属容器の周りには……。
俺たちを熱湯風呂に叩き込もうという顔で、かなりの数のゴブリンたちが、手ぐすね引いて待ち構えていたのだ!
「はあ、はあ……」
激闘の末。
俺たちは、熱湯エリアのゴブリンどもを蹴散らすことに成功した。
だが、この戦いで脱落した仲間も多い。
熱湯風呂のすぐ近くに座り込んで、ふと、周りを見回せば……。
残ったのは、俺の他に、シロー・セイロク・ミキお姉さんの三人のみ。
ある意味、精鋭部隊ということだろうか。勇者を含む四人パーティー、といった感もある。
「……疲れましたね」
勇者であるはずの俺の口から、そんな弱音が漏れてしまった。
肉体的な疲労は感じないはずだが、精神的に『疲れた』と思ってしまったのだ。
「おいおい。そんなこと言うなよ。それでは、情けないリーダーだぞ」
茶化すような言葉だが、セイロクの声には、俺を慰めるような響きがあった。
「リーダーといえば……」
顎に手を当てながら、今さらのように、シローが尋ねる。
「テツオ君、我々は、どこへ向かっているのかね?」
「そうそう。何となく、ここまで来てしまったけど……。あなたは、どこへ行きたいの?」
ミキお姉さんにまで、そう聞かれてしまった。
どこへ行きたいのか。
冒険の行き先を尋ねられたのだから、これはポジティブな質問なのだろう。だが、何故か俺は、ネガティブなニュアンスを感じ取ってしまった。まるで墜落する飛行機の中で「君はどこへ落ちたい?」と聞かれているかのような……。
そんな空想を吹き飛ばす意味で、頭を振りながら。
俺は、思いっきり前向きな目標を口にしてみた。
「やっぱり……。魔王を倒したいです! 目的地は、魔王城です!」
魔王退治。
出来るかどうかは別として。
目標は、高く設定する方がいい。
Web小説で、その作者たちが「そこにコンテストがあるから、とりあえず応募しておこう」みたいになるのと同じだ。「これ、それくらい軽い気持ちで応募してるんだろうな」という作品、俺は何度も読んだことがあった。
でも、今ならわかる。本当に、目標は、高く設定する方がいい。ダメで元々、って言葉もあるくらいだ。
「魔王か……」
「あれ、テツオは、この世界から脱出したいんじゃないのかい?」
呟くシローと、少し意外そうなセイロク。
一方、ミキお姉さんは、建設的な意見を出してくれた。
「魔王と戦うにせよ、脱出するにせよ……。どちらにしても、例の『門』を越えるしかないわね」
「そうだな。この世界の出口も、別の世界への入り口も、魔王の居城も……。あの『門』の先だからな」
シローも頷いている。
彼らの会話を聞いて、その『門』というのも気になったが……。それよりも、もっと気になることがあった。キリンさんとゾウさんくらい違う『もっと』だ。
「やはり、この世界には、魔王と呼ばれる存在がいるのですか?」
彼らは、さも当然のように話しているのだ。ならば、そこだけは確認しておかなければ!
「まあ……。魔王って、アレよね?」
「だろうな」
ミキお姉さんとセイロクが、顔を見合わせる。
続いてシローが、
「うむ。十人いる……。いわば十大魔王なわけだが、その中でも五番目の魔王こそが、この世界を代表する『魔王』ということになるのだろうな」
「十大魔王……? そんなにいるんですか!」
俺は驚いて聞き返してしまった。
少し唖然とする俺の肩を、ミキお姉さんが優しく、ポンと叩く。
「とりあえず、目的地は決まったわね。例の『門』まで行きましょう!」
明るい彼女の言葉に励まされて。
俺たちは、その『門』とやらを目指して、歩き始めた。
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