転生したら驚いた!(4)

   

 ゴブリンには、確か『小鬼』という呼び方もあったと思う。

 ゲームや漫画や Web小説では、最下級のモンスターである場合が多いが、時々、結構な強敵として設定されている場合もある。

 そして、ここの小鬼ゴブリンたちは。

 武器を持たない人間たちでも、数でまされば何とか戦える、というレベルだった。

 一斉蜂起した俺たちは、力のギリギリまで頑張って……。

 かなりの数のゴブリンを蹴散らした。

 それでも、まだまだ健在のゴブリンは、俺たちの脱走を阻もうとしていたが、

「ここは俺に任せて、テツオたちは先へ行け!」

 頼れる先輩といった感じのミチヤが、残ったゴブリンを一手に引き受けてくれた。ミチヤがゴブリンたちを押しとどめている間に、俺たちは、強制労働場だった石臼施設から、脱出することが出来た。


「ミチヤさん……」

 ついつい、残った彼を心配してしまう俺に対して。

「彼を信じなさい、テツオ君。ミチヤ君なら、きっと大丈夫だ」

「そうだぜ! 彼の犠牲……。いや、努力を無駄にしないためにも! 俺たちは進むしかないのさ!」

 ナイスミドルのシローや小太りセイロクが、励ましの言葉をかけてくれる。

 だから俺は、彼らと共に。

 後ろを振り返ることなく、冒険の旅に出発した。


 ……といっても。

 よくある異世界ファンタジーのような、村や町があるわけでもないのだ。正直、どちらに行けばいいのか、俺にはわからなかった。

 でも、別に俺が集団を率いずとも、みんな、何となく同じ方向に向かって進んでいる。だから、俺も深く考えずに、一緒になって進軍することにした。


 冒険の旅には、「幾多の困難を乗り越えて」なんて言葉が、よく似合う。

 この世界では、村や町がないので、それっぽいイベントは発生しない。代わりに、フィールドマップ自体が、乗り越えるべきイベントに相当するようだった。

 カミソリのや人を突き刺す針のような、凶悪な葉っぱだらけの草木。そんな植生の、恐怖の樹林の山……。

 吹きすさぶ風が肌に痛いくらいの寒冷地帯。さらに時折、強風は吹雪ブリザードに変わる。見渡す限りの、雪と氷の世界……。

 逆に、さっきまでの寒さが嘘のような、魔の溶岩地帯。間欠泉のように、大地の割れ目からマグマが吹き上がる、灼熱の大地……。

 

 フィールドそのものが大変な上に、思い出したかのようなタイミングで時々、ゴブリンも出現する。最初の強制労働場より数は少なかったが、地形効果が俺たちに不利に働くらしく、俺たちは苦戦する。

 かろうじて常に勝利を収めるものの、少しずつ、仲間の数は減っていく。一人、また一人。冒険の旅から脱落していくのだ。

 

 そして。

 俺たちは、久しぶりに温暖な地域にたどり着いた。美しい緑の――まともな――木々に囲まれて、池もあるようだ。

 回復の泉。

 そんな言葉が、俺の頭に浮かんだ。

「ここって……。セーブポイントみたいな感じ?」

 思わず呟いた俺に対して。

「ははは……。面白いことを言うのだなあ、テツオ君は」

「そう思うなら、池の水、飲んでみるかい?」

 シローとセイロクは、からかうような言葉をかけてくる。

 だが、俺がムッとするより早く。

「そんな言い方、ダメですよ」

 ミキお姉さんが、二人を諌めてくれた。

 おかげで、俺の心の中で形になりそうだった黒いものが、スーッと消えた。ありがとう、ミキお姉さん。

「まあ、みなさんがそう言うなら……」

 俺は一応、セイロクの言葉に従って、池に近づいてみたが……。

「あちゃあ。ダメですね、これは」

 池の水は、見るからに毒々しい色をしていた。青く澄んだ水ではなく、赤黒い輝きを示す水。

 どう考えても、回復ポイントではないだろう。むしろ、間違って口にしたらダメージを受ける、トラップポイントだ。

「……ごめんなさい。前言撤回です。この池は、無視しましょう。次、行ってみましょう」

 そう言って。

 俺は、みんなに前進を促した。

   

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る