転生したら驚いた!(2)

   

 巨大な石臼を回す、寂れた感じの人間たち。

 俺も、その一員に加わることになった。まだ俺は『寂れた感じ』ではないが、元気いっぱい、明るく振舞ったりしては場違いだ……ということくらい、心得ている。

 だから黙って俺は、割り当てられた取っ手につかまり、体重をかけて押し始めた。


 とりあえず、これを回してさえいれば、怒られることも鞭打たれることもないらしい。

 手と足は動かしつつ、俺がキョロキョロと周りを見ていると、一つ前の棒を担当をしている者が、振り向いて挨拶してきた。年齢は三十歳くらいで、背格好は中肉中背の男だ。

「よう、ご同輩」

 どういう意味で『ご同輩』と言ってきたのか、わからないが……。まあ、無難な対応をしておこう。

「こんにちは。えーっと……。みなさんは、この世界で生まれ育ったのですか?」

 見た感じ、擦り切れた洋服を着ている。異世界ファンタジーの住民とは思えなかったが、一応、そう尋ねてみた。

「ハハッ! そんなわけあるかい。俺も、ここの奴らも、みんな、あんたと同じ立場の人間さ」

「それって……。つまり、みなさんも異世界転生した、ってことですか?」

 俺の言葉に、彼は苦笑しながら、

「異世界転生か。最近は、そういう言い方もあるのかい。時代も変わったな……。そうだ、転生者さ。よろしくな」

 なんと!

 では、この『異世界』は、転生者ばかりの世界なのか!

 それでは生前の知識を振りかざしてチート無双というわけにもいかないし、そもそもハーレム要員もいないじゃないか!

 Web小説の世界でも、一部、無双やハーレムを嫌がる書き手がいることは知っていた。そういう作者の小説では、簡単に敵を倒すことは出来ずに修行が必要だったり、ハーレムではなく冒険のすえに巡り会う一人だけのヒロインと――運命の相手と――結ばれたりするらしい。

 俺の異世界転生も、そっちのパターンなのだろうか。

 少なくとも、でっかい石臼を回していたら力は付きそうだから、修行にはなるのだろう。問題は、石臼回しに明け暮れていたら『冒険』の旅には出られないから、運命のヒロインと出会う機会も来ないということなのだが……。


 そんなことを俺が考えている間にも、男は、自己紹介を続けていた。

「俺の名前は、横原ヨコハラミチヤ。気軽にミチヤと呼んでくれ」

「ああ、こちらこそ……。申し遅れました。俺は、弾波だんぱテツオ。テツオです、よろしく」

 つい握手をしたくなり、それまで両手で回していた棒から右手だけ外して、ミチヤの方へ伸ばそうとしたが……。

 その途端、近くのゴブリンが、ピシリと鞭で地面を叩いた。こちらを睨んでいる。

 慌てて俺は、右手を戻した。どうやら、話をするのは構わないが、作業を怠けてはいけない、ということのようだ。片手になるのも『怠けている』扱いなのだろう。

 だから挨拶は、口頭だけのものとなる。

 それでも。

 俺とミチヤの会話を耳にして。

 周囲の者たちが、俺に声をかけてくれた。

高城タカシロセイロクだ。よろしく!」

宝田タカラダシローという。以後、お見知りおきを」

 ちょっと小太りのお兄さんがセイロクで、ロマンスグレーのナイスミドルがシロー。

 よし、覚えた。

 そして、軽やかな女性の声も飛んでくる。

木上キノウエミキよ。ヨロシクね」

 枕詞で『絶世の』と付け加えるほどではないけれど、それでも美人のお姉さん。笑顔がチャーミングなところも、高ポイント。

 よし!

 思い描いたハーレム生活とは程遠いが、少なくとも、この世界にも女性がいることだけは判明した。

   

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