第14話

 君にカメラを返したあの日から一週間。


 君から何も連絡はないし、僕から評価を聞きに行くこともしなかった。


 なぜなら、君からの宿題が嫌だった僕は、君が指定した枚数を撮ることだけを考え、撮影していた。

 その結果、君や佐野さんの写真を消さずに提出してしまった僕は、きみの仕掛けた地雷を踏んでいるらしい。


 そんな僕が、わざわざ君に評価を聞きに行くのもおかしい。


 何事もなかったかのように、響や佐野さん達と過ごす日々は、とても心地いいものだ。



 でも、一つ気になることがある。


 それは、廊下や集会で君に会っても、君は何も言ってこないし、ちょっかいを出してこない。


 お互い一人で歩いていたとしても、話しかけて来ることはない。


 写真を君が見て、僕は不合格になったのだろうか。


 それはそれでいい。


 もう、君から容疑者や変態呼ばわりされることは、ないのだから。


 けれど、不合格なら不合格と言って欲しい。

 いつ君が教室に来て、結果発表を始めるか分からないから。


「じゃあ、また明日」

「おう。また明日」

 響の背中を見送る僕は、溜息をついた。


 響以外にも友達はいるが、帰る方向が同じ者は少ない。

 その少ないメンバーのほとんどが部活に所属していて、帰宅部の健太と帰る時間が同じになる者はいない。


 今日も一人で帰る。


 イチャつくカップルが並んで帰るのを見るとなんだか、寂しく感じる。


 下駄箱の中にラブレターが入っている訳でもなく、僕は肩を落とし黙って玄関を出た。


 そんなドラマみたいな青春は、僕にくるのだろうか。


 ピーコン。


 突然、鳴ったスマホの通知音。


 ポケットからスマホを取り出し、画面を確認する。


 新しいメッセージがあります。

 その吹き出しをタップして、メッセージを確認する。


  やっほー。

  大野 健太容疑者へ。

  新島 華です。


 連絡先は、君の知り合いから聞きました。

 写真の評価を後で伝えに行きます。


 あと、もう一つ。

 リュックのファスナー開いてるよ。


 慌ててリュックを確認すると、確かにリュックか大きな口を開けていた。


 いつからだろうか?

 ざっと落としたものがないか中身を確認するが、落としたものはなさそうだ。


 そして、あることに気付く。


 ファスナーのことを知っているということは、どこからか見られているのかもしれない。


 一通りぐるりと校舎や校庭を見渡すが、君の姿はない。


 ピーコン。


  私をさがしてるねー。

  後ろだよ後ろ。


 素早く後ろを振り返るが、君はいない。

 校舎の窓を一つ一つ確認するが、見当たらない。


 ピーコン。


  うそだよー笑。


 何だこれは。

 ムカつく。


 もう君のメッセージは無視しよう。


 君がどこにいるのか気になって仕方がない。


 どこだ。

 新島 華はどこにいる。


 ピーコン。


  正解は、体育館前でした。


 僕は素早く体育館前に視線を向けた。


 首からカメラを提げ、風にスカートをひらつかせる君がいた。

 スラリとした体型の君は、行き交う女子の中でも目立っている。


「また、明日」


 君は、僕に聞こえるように大きな声で言いながら手を振ってきた。


 いやいや。

 恥ずかしい。


 付き合っているならともかく、いや、付き合っていても恥ずかしいが、誰かに見られたら誤解を生む。


 軽く会釈をしてから、僕はスマホをポケットに入れて歩き出す。


 ピーコン。


 君だろう。

 無視だ、無視。


 校門を出て右に曲がる。


 すぐ脇を通過するトラックに自転車。

 どこにでもありそうな、そんな路地。


 ピーコン。


 気にせず歩道を歩く。

 最近、舗装を綺麗にしたこの道は、すごく歩きやすくなった。

 入学してすぐの頃は、何度かこの道で躓いたことがある。


 ピーコン。

 ピーコン。


 なぜか、通知が止まらない。


 どうせ、

 無視しないで。

 とか送ってきているのだろう。


 呆れた僕はスマホの画面を確認して、汗をかく。


 メッセージ送り主は、まさかの親。


  返事しなさい。

  はやく返事しなさい。


 そんな怒りのメッセージが届いていた。


 帰ったら怒られる。

 なんだか今日は、タイミングが悪い。



 これも、すべて君のせい。

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