第13話
爆弾が二つになってしまった僕は、カメラを片手に科学準備室に向かう。
胸ポケットと右手に爆弾を抱えるなんて、いくら優秀な爆発物処理班でさえも、頭を抱える状況だ。
誰もいない階段を上り、突き当たりを曲がれば、すぐ左側に科学準備室はある。
君と初めて会ったあの日は、開け放たれていた扉は今日は、閉められていた。
ガコガコ。
僕がいくら扉を開けようとしても、扉は変な音を立て、開くことを拒否している。
どうやら、鍵が閉まっているらしい。
君はどこにいるのだろうか。
まだ、教室?
もしかして、帰った?
ここで、少し待ってみようかな。
しかし、黙って待っているのもつまらない。
色々な考えが頭を駆け巡ったが結局、君の教室に向かうことにした。
科学準備室でカメラを返せれば、周囲からの視線がなく、それが一番いいのだが、君がいないのなら仕方ない。
君の教室に行こう。
しかし、そうなると僕は、君のクラスメイトからの視線を浴びながら、君にカメラを返さなくてはならないことになる。
爆弾を手放すために少しの我慢しなければならないが、ほんの少しの我慢で済むのならそれでいい。
この学校は特殊な造りで、小、中学校の時の一年生は一階、二年生は二階、三年生は三階という僕の常識を覆してきた。
一階は、保健室に事務室、図書室などがあり、二階は職員室と定時制教室、三階に一年生、四階に二年生、五階に三年生という構造になっている。
エレベーターはあるが、教師専用。
特別な理由がない限り、生徒は乗ることを許されない。
理不尽というか不条理。
三年生になれば、毎朝、五階までの階段地獄を味わうことになる。
「あぁ、疲れた」
階段と長い廊下との戦いを終え、僕は君の教室の前に辿り着く。
キャピキャピした声が廊下まで聞こえてくる君の教室は、クラスの雰囲気が良さそうだ。
清掃が終わり帰宅が可能なのにも関わらず、君のクラスにはまだ、多くの生徒が残っていた。
「すみません。新島 華さんは、いますか?」
僕はドアの前で雑談をしていた優しそうな男子の先輩に声をかけた。
「華!お客さんだぞー」
教室に呼びかけてくれた先輩に頭を下げて、君の反応を待つ。
君は、クラスの男子に華と呼ばれているらしい。
大体の女子に対して僕は、さんをつけて呼ぶ。
例えば、新島さんみたいに。
名前で呼べるほど仲の良い女友達など、僕はいない。
華、お客さん。
その声に、五、六人で楽しそうに話していた女子グループの一人が振り返る。
「おーっ。待ってたよー」
机の間を縫うように駆け寄ってくる君は、とても笑顔だ。
彼氏?
誰?
そんな、クラスメイトの視線を一身に受けた僕は、背中を伝う変な汗を一刻も早く拭きたい気分。
教室前の廊下に出て来た君に、僕はカメラという爆弾を返す。
まず、一つ目の爆弾を返却。
「これ返します。あと、盗撮した写真消しておいて下さい」
僕は、胸ポケットに手を当て写真の感覚を確かめる。
この写真が出回れば、僕は恥ずかしくて、この学校にいられない。
「それは、写真を確認してから考えます」
君の小悪魔的な笑顔は、もう見飽きた。
「カメラのメモリーだけじゃなくて、スマホに転送してるのであれば、そっちもお願いします」
用心深い君は、どうせスマホに写真を移しているだろう。
「まぁ、点数による」
どうやら、二つ目の爆弾の処理には時間がかかるようだ。
「じゃあ、失礼します」
一刻も早く君のクラスメイトからの視線から外れたい僕は、君の返事を待たずに、素早く君に背中を向けて歩き出す。
早く、逃げよう。
「ちょっと待って」
「何ですか?」
君の声に振り返ると、僕は君からは少ししか離れられていなかった。
ニコニコしながら歩み寄って来た君は、右手を差し出して来た。
「プレゼント」
僕の差し出した右手に乗ったのは、二個の小さなチョコレート。
チョコレートを貰ったと同時に、僕の警戒レーダーの警報音が鳴りまくる。
完全に敵としてロックオンされらしい。
戦闘機のように素早く旋回ができない僕は、素直に撃墜されるしかなさそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます