最終話:そして役者は揃った。


 その晩、一夜にしてローゼリア王国は滅びた。


 たった一人の少女がその破滅を引き起こしたのだ。


 そして、ローゼリア王国は丸々、光の壁で囲われた。

 少女がどのような手段を用いたのか、誰もローゼリアに立ち入れないように断絶され、外からは中がどうなっているのか全く分からなくなってしまった。


 偶然ローゼリアに立ち寄ろうとしていた旅人はその瞬間を見ていて、出会う人たちに必死に語る。


「城下町に入ろうと向かっていたらもう一面火の海だったんだ。信じてくれ、たくさんの魔物を、女の子が指揮してたんだ。あれは魔女だ。恐ろしい魔女だ!」



 最初はそのような戯言だれも信じなかったのだが、翌朝本当にローゼリアがおかしな事になっていると分かると、皆口々にその魔女の事を恐れ、こう呼んだ。


 傾国の魔女、と。


 そして人々の噂は止まらない。

 一夜にして国を傾けた魔女、どころではなく、既にローゼリアは滅んでしまったのだ。だったら傾国どころか滅国だ。


 滅国の魔女。


 誰もその姿を知らない。

 本当に実在するのかも分からない。


 だが、ローゼリア周辺の街ではその噂がまことしやかに囁かれ、やがて、誰も口にしない禁忌となった。


 滅国の魔女に関わるな。

 滅国の魔女を知ろうとするな。

 滅国の魔女はすぐ傍に潜んでいて、いつでも我々を殺しに来る。

 滅国の魔女を忘れろ。

 滅国の魔女を語るな。

 そんなものは居ない。

 ローゼリア王国など知らない。

 忘れろ。忘れろ。忘れろ。


 人々は恐ろしい終焉から目を背け、しかし心のどこかでいつか来るかもしれない終わりに怯え続ける。






 そしてしばしの後、アルプトラウムはとある冒険家に目をつける。


 特殊な兵器を大量生産している東の国を危険視したロザリアは、アルプトラウムの力を借りてエンジャードラゴンを大量に生み出し、その国を亡ぼす為に送り出した。


 しかし、結果は全滅。


 何者かがエンジャードラゴンを全て殺したのだ。


 勿論アルプトラウムはそれが誰なのかを見ていたが、彼女には詳しい内容は伝えなかった。


 その方が面白そうだったからだ。


 そして、さらに面白い事を思いつく。


『実はとてもいい体を見つけたんだ。とてつもなく強靭で、恐らくアーティファクトと同化している体だよ。男性の物だが、どうだろう?』


「男、か。私は別に性別など気にしない。強い体が手に入るのならそれでいいわ。それに……外見を好きなように変えるくらい今の私にはどうって事ないもの」


『くっくっく。それはそれは……とても楽しい事になりそうだよ』



 アルプトラウムはエンジャードラゴンを撃ち滅ぼした戦士と、彼女、もう一人のロザリアの体を入れ替えた。

 なかなかにエネルギーを使う物であったが、彼は面白い事の為ならなんでもする。


 彼女は才能豊かな魔力の宝庫である身体を捨てる事になるが、魔力の補強程度ならアルプトラウムが共に居ればどうにでも出来る。

 そして、新たな身体にはそれを差し引いても有り余るだけの力があった。



 女の体になった戦士には、魔王討伐を条件に元の体に戻してやると言った。

 この世界には魔物が蔓延り、個体それぞれは大した事がなくとも徒党を組んで暴れ出すとなかなかに厄介な連中だ。


 一時期はアーティファクトにより人間に支配されていたが、欲深い人間が魔物を使役し世界を支配しようとした過去があり、勿論その当人は他のアーティファクト使いに討伐され、その際魔物を使役するのに使用していたアーティファクトは損壊。

 それから歴代の魔物を統べる王は人間を敵視している。


 魔物を統べる王、それは他の魔物達とはくらべものにならない程の力を持ち、圧倒的なカリスマ性にて知性のある魔物は勿論知性の低い魔物からすらも信頼されている。

 このまま放置しておくと増長し、面倒な事になりかねない。


 それをその戦士に討伐させ、眺めて楽しもうと思っていた。

 討伐できようと出来まいと知った事ではない。

 それが面白そうだったからそうした。

 更に、その冒険者の危機感を煽る為に、早く元の身体を取り戻さなくてはいけない理由付けをしてやった。


 それは呪いだ。

 本来アルプトラウムは荒事向きであり、そういった小細工は得意分野では無いのだが、まだ天界に居た頃交流のあった神がこういう小細工に長けていた。

 面白そうだと思った彼は、神々を亡ぼす際、その神だけは殺さずに体内に取り込んだ。

 驚くべきことに、相手の同意の元である。


 その神、名前をメイディ・ファウストと言う。





 しかし、ここでアルプトラウムにも一つ誤算が生じる。


 新たな体を手に入れたロザリアは自ら腕試しと称して魔王を倒しに行ってしまった。


 まぁ、それはそれでアルプトラウムにとってはなかなか面白い見世物だったのだが。




 こうして滅国の魔女の、世界への復讐が始まる。


 それを傍で見守る、神であり悪魔であるアルプトラウムは……。



『これでそれなりに役者は揃った。ここからどのような物語を……どのような展開を見せてくれるのか考えるだけでゾクゾクしてくるね』



 そんな事を呟きながら今日も世界が面白くなるようにと、ほくそ笑むのだ。

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滅国の魔女 ~姫が王国を滅ぼした理由~ (ぼっち姫、外伝その壱) monaka @monakataso

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