第十一話:神の遊び。



「貴方はどうして私にここまで協力してくれるのかしら?」


『特に理由はないよ。楽しそうだから、かもしれないね』


「さすが悪魔ね。面白ければなんでもいいって訳?」


『まぁそういう事だね。私もさすがに長い時を何もせずに過ごしてきたからそろそろ余興が欲しい所だしね。君に力を貸すのはやぶさかではないよ』


 彼女はほくそ笑む。

 今まで自分が体の主導権を握れるのはほんの僅かな時間だけだった。

 あくまでもロザリアという少女の中に生まれた何かだった自分が、今ではその体を支配するまでになった。

 彼女と違い、私は毎日毎日限られた時間の中で血の滲むような努力をしてきた。

 それがやっと報われる時がきたのだ。


 ロザリアだった何かは、この瞬間、間違いなくロザリア本人に成った。


 まずは手始めにローゼリアを落とす。

 特に理由なんて無い。

 世界に対する宣戦布告だ。


 私はこの国を潰し、アーティファクトを沢山手に入れて、全ての頂点に立つ。


 この世に生まれた瞬間から、

 この世の何者でもなかった私が。


 ある程度アーティファクトが幾つくらい残っているのか分からない。

 だけどアーティファクトと言う物は数より質だとアルプトラウムは語った。

 彼本人も私に力を貸してくれる。


 彼女は、既に魔法でアルプトラウムの封印を解き放っており、本来の姿を取り戻していた。


「まずはこの体を手に入れた。でもそれは第一段階でしかないわ」


『確かもっと丈夫な体がほしい、だったかな?』


「そうよ。こんなか弱い体じゃ限界があるもの。いくら魔法が使えたとしても体力も力も無い体じゃこの世界に復讐出来ないじゃない」


『世界に復讐ときたか。これは面白い。確かに生まれながらに閉じ込められていたような物だからね。生まれながらに世界に裏切られていたと言っても過言ではないだろう』


 彼女は、ただ単にロザリアのもう一つの人格、という訳ではなかった。

 ロザリアの中に、生まれながらにして閉じ込められていた何か。

 それが何なのかは彼女本人も分からない。


 ロザリアの中でゆっくりゆっくり支配を広げ、やっと一日のうち数時間だけ、ロザリアが眠った時に体を動かせるようにまでなった。


 それまではただ自分の意志とは無関係に動き、勝手に望まぬ映像を見せてきては憎らしい幸せな日々を送るロザリアをただ妬ましく見つめる事しかできなかった。


 彼女は生まれながらにこの世界を憎んでいた。


 だからこその執念であり、だからこそアルプトラウムの目に適ったのだろう。


 しかし彼女もまだ知らない。


 アルプトラウムは面白ければそれでいいのだ。

 彼女に多少の贔屓目はあるが、それは彼女の味方であると同義では無い。


 その証拠に、彼は魔物を率いて城へ向かう彼女とは別の方向へ歩き出す。

 彼女も、アルプトラウムを自由にさせていたし、縛れるとは思っていなかった。敵にさえならなければそれでいい。


 そして、アルプトラウムは自分が楽しむ為ならば誰の味方でもするし誰の敵にもなるのだ。



『やあ、お姫様。そのままの姿で生きていくのは辛いだろう? 少しだけアドバイスをしてあげようじゃないか』


 謎の小動物にされてしまったローズマリーに、そしてその中に居るロザリアに向けて彼は語る。


『エンシェントドラゴンっていうのはね、その姿を自由自在に変える事が出来る上にその体はとても丈夫でね。そんな姿にされてしまったとはいえ違う物になったのではなく、そういう形に組織を変更されたんだ。難しい話は分からないかな?』


 そう言って彼は笑う。

 敵意は感じられない。

 しかし、善意も感じられない。


 胡散臭い事この上ないが、ロザリアは、この状況をどうにかするために彼の言葉を頭に焼き付けるしかなかった。


『エンシェントドラゴンは無意識に共にいる相手の魔力を餌にして生きる。死にたくなければ魔力量の多い誰かを探す事だね。そしてお姫様、君が自由になりたければアーティファクトを集める事だ』


 アーティファクト?

 ロザリアには何の話をしているのか全く分からなかったが、もうそれに縋るしかない。


『エンシェントドラゴンは純度の高い魔素を取り込めば取り込むほど力を増すのさ。その身体を自由に変化させ、どんな物にも姿を変えられるようになる。ローズマリーがドラゴンとしての本来の力に目覚めれば、その中に居る君も力を取り戻せるかもしれないね』


 どういう原理か分からないが、マリーが力を取り戻す事が自分の解放へ繋がるというのなら、それをやるしかない。


 そしてもう一人の私を止めなければ。


 ロザリアは、もう一人の自分という存在が一体何なのか全く分からないまま、自分自身を止める決意をする。


『ローズマリーも人の言葉がある程度分かるのだろう? 君の中にロザリアが居る。君が守ってあげなさい。そして魔力を食べて彼女を助けてあげなさい』


「きゅ……。きゅっきゅ!!」


『ふふ……いい子だ。さて、ここは危険だからね、せめて少し離れた場所へ転移させてあげよう。そこからどう生きるのかは君たち次第だ。できれば、今後面白くなるような展開を期待しているよ』


 アルプトラウムは、その場を後にし、城を目指す。

 彼女の破壊を見届ける為だ。


 そして、早くも煙が上がる城を見つめ一人ごちる。


『……せいぜい、私を楽しませてくれよ』

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