第十話:交差する運命。
『そんなに好きなら永遠に一つになってしまいなさい』
ロザリアの、「誰っ!?」という声は、既に言葉にならなかった。
『喜びなさい。大切に思う相手同士、いつまでも一緒に居られるようにしてあげるから』
ロザリアは何が起きているのか全く理解ができなかった。
ただ、目の前でマリーが苦しんでいる。
誰かがマリーに危害を加えている。
それが分かっているのに、どうする事もできない。
抗う事ができない。
その力がロザリアには無い。
彼女は自分の無力さを痛感し、どうして今まで真面目に魔法を勉強してこなかったのか、それを心底後悔した。
大切なマリーすら守る事が出来ず、自分もここで……?
身体が思うように動かない。
視点もおかしい。まるで地面に倒れているような感覚。
『ローズマリー、だっけ? その子も念のために無力化させてもらったわ。二人仲良くか弱い生き物の人生をせいぜい全うなさい』
ふとそこでロザリアは苦痛を感じなくなる。
何が起きたのか確認しようと辺りを見渡そうとして、異変に気付く。
身体が思うように動かない。
いや、正確には体が勝手に動いている。
視点も自分の意志では動かない。
まるで誰かに操られているような感覚だった。
冷静に考えてみるが、答えが出ない。
ただ、どうやら自分が操られているというよりは、誰か違う人の体に入ってしまったかのように感じられた。
実際それは間違いではなく、それに気付いた瞬間彼女は叫びたくなった。
勿論叫ぶ事はできないのだが。
いつのまにかロザリアは、何かとても小さな生き物の体になってしまっていた。
「きゅ? きゅきゅー??」
その小さな生き物は、聞きなれた声で辺りを見回す。
これはマリーだ。
ロザリアがその声を聴き間違える事など無かった。
自分はマリーの体に入っている。
そこまでは理解できたが、マリーの体にしても小さすぎる。
どうやら何者かに魔法でマリーの体に入れられただけじゃなく、マリー自体も小動物か何かに姿を変えられてしまったようだった。
『命までは取らないであげる。仮にも、今まで共に過ごしてきた関係だからね』
マリーが慣れない身体を必死に動かして声の主の方を見る。
マリーの目を通して、見えたその声の主、
それは……
ロザリアだった。
「貴方に説明しても仕方が無いのだけれど、一応教えておいてあげるわ。この体は今日から私だけの物。貴方の人生の分まで生きてやるから安心しなさい」
ふざけないで!! そう叫ぶことすらできずにロザリアは憤る事しかできない。
「しかし貴女だけをこの身体から追い出すのには苦労したのよ? 貴女だけを消し去る事もできたのだけれど、出来るだけ絶望を味合わせたいじゃない? 自分の身体が自分の思うように動かせない苦しみを味わって苦しんで絶望して惨めに死んでいきなさい。その大切な相手と共にね」
マリーは、突如変貌したロザリアに困惑するばかり。
「さぁ、まずはローゼリア王国を滅ぼすわ。巻き込まれないようにせいぜい遠くへ逃げるのね」
そう言ってロザリアの姿をした何かは城の方へ歩いていく。
ダメだ。
あれを、自分の振りをした何かを城に入れてはいけない。
「さぁお前ら、私の為に働きなさい!」
遠ざかるロザリアの姿をした何かが、腕を振り上げると、どこからともなく大量の魔物が現れ彼女に続いた。
マリーも、その中のロザリアも、恐怖で動けなかった。
初めて見る魔物に足が竦む。
いや、足なんて感覚すら今は無かった。
そんな事を今さら実感して泣きそうになる。
自分の体を何かに奪われてしまった。
その相手は自分の体を使って国を滅ぼそうとしている。
ロザリアにはそれがたまらなく辛かった。
マリーと一緒なのはせめてもの救いだと思ったのだが、どうやら自分の声はマリーに届いていない。
マリーはただひたすら、私が変貌し、マリーにひどい事をしたと思っている事だろう。
それがとても悲しかった。
そして……
そして気付いてしまった。
ロザリアの姿をした何かの後をついていく一際大きな魔物の存在に。
ぶよぶよとした紫色の身体。
肉の塊という表現がぴったりだったその魔物は、頭部から綺麗なブロンドをなびかせていた。
彼女は気付いてしまった。
その美しい髪に
見覚えのある髪留めがついているのを。
「……っ、お……お姉様……」
ガーベラは体が弱かった。
故に、人体実験には最適だったのだ。
人体をいじくるには結果が分かりやすい被験体が必要であり、その実験にガーベラの身体はとても使いやすかった。
ただ、それだけの理由でガーベラは彼女に選ばれた。
そして、その際の実験は、成功と失敗。
身体を強化し、強靭な物に変質させる事には成功したがその反面醜い見た目になり、自我も崩壊してしまった。
その後も彼女は城内、城外問わず被験体を確保しては実験を繰り返し、自由に身体を強化する方法も外見を維持する方法も習得している。
そんな非道な行為を繰り返したロザリアの姿をした何か、が誰なのか。
それもまた、ロザリア本人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます