第九話:始まった終わり。
「お父様! お母様!! お姉様が、お姉様が亡くなったとはどういう事ですか!?」
一報を知らされたロザリアは物凄い剣幕で両親に詰め寄った。
「どういう事、と言われてもな。あれの体の弱さは知っていただろう。つまり、その時が来てしまったという事だ」
「そうよロザリア。これからは貴女がこの国を守らなければなりません。今までのように興味がないからと言って魔法を避けてはいられませんよ?」
父も、母も、姉の死を悼んでなどいない。
何故かは分からない。
両親は二人とも自分よりむしろ姉の方を贔屓にしていたように思う。
それがこの態度の変わりようはなんだ?
彼女は心になんとも言えぬもやもやを抱え、そして、それ以上に深い悲しみに包まれた。
いつでも彼女を優しく包み込んでくれた、大好きな姉はもう居ない。
彼女が両親に、姉の遺体を確認したいと言っても既に処分したと言われた。
埋葬ではなく、処分。
ロザリアは、自分を抑えられなくなっていた。
絶対に何かがおかしい。
この国は、何かがズレてしまっている。
彼女は自分がどうすべきかを迷うが答えは出ない。
どうするかよりも、どうしたらいいのかが分からないのだ。
もう、何のために生きればいいのだろう。
自分にはもうマリーしかいない。
マリーと二人でやりたいように生きよう。
父や母は怒るだろうか?
失望するだろうか?
もしそうだとしても構わない。
彼女は、そう決めた。
「フリッタ! フリッタどこにいるのかしら!?」
「はいはいお姫様。今日はどうされたんですか?」
この時フリッタは若干呆れていた。
姉を失ったというのにこの子はいつもと変わらないようなワガママを振りまきながらこちらへ向かってくる。
フリッタもガーベラが亡くなった事はショックだったが、彼はロザリアを好いていたので、落ち込んではいないかと心配していたのだ。
落ち込んでないようで安心した気持ちは勿論ある。
だがしかし、それにしたってこの態度はどういう事だ?
「姫。今しばらくは静かにしていたらどうですか?」
「しゃーらっぷ! 貴方がわたくしに口答えするなんて二十億年早いのよ! わたくしはもうわたくしとマリーの為だけに生きると決めたわ。姫? そんなの知らない。わたくしはわたくしのやりたいように生きる。だから、今日はこの子と外へ行くわ」
フリッタは驚いた。
確かに自由奔放でワガママな姫様だったが、彼女がここまで無茶苦茶を言い出す事は今まで一度も無かったからだ。
姉のガーベラが亡くなった事で混乱しているのかもしれない。
自分の冷たい態度を恥じた。
だから、尚更彼女を止めなければ。
「姫、ロザリア姫! いけません。一時の感情でヤケにならないで下さい! ガーベラ様だって……」
「アンタがお姉様の何を知ってるって言うのかしら!?」
ロザリアが物凄い剣幕でフリッタを睨むが、フリッタは怯むことなく立ちふさがった。
他の兵士達も周りにいるのだが、姫に逆らおうなんて兵士は彼くらいの物だった。
きっと彼の行動は褒められるべきものであったのだろうし、心からロザリアを想っての行動だったのだろう。
だが、そんな事ロザリアには関係なかった。
「私の前から消えうせろぉぉっ!!」
いくらこの国を守る衛兵であろうと、まさか一国の姫が、少し前までただのやんちゃなお子様だったロザリアが、問答無用で殴り掛かって来るとは思わなかった。
彼が気が付いた時には彼女の拳が視界一杯に広がっていて、次に目が覚めたのは医務室のベッドの上だった。
そして、自分の不甲斐なさに泣いた。
自分が愛する姫との間にぽっかりと空いてしまった溝の深さに絶望して、泣いた。
そして、彼が残りの生涯で【ロザリア】を目にする事は二度と無かった。
ロザリアはマリーを引き連れて城を出る。
そのまま森へ向かい、久しぶりにマリーと走り回った。
マリーは途中で羽根を羽ばたかせ、宙に浮かぶ。
「凄い! マリー空飛んでる!!」
ロザリアは走りながら、低空飛行をしているマリーに飛びついた。
しかし、マリーは宙に浮いたのはこれが初めてで、飛ぶのがあまりうまくない。
そこで十七歳の少女が飛びついてきたら……当然バランスを崩し落下してしまう。
激しく地面に叩きつけられ一人と一匹は悲鳴をあげながら地面を転げ回った。
幸いにも多少擦りむいた程度で大きな怪我はなく、なんだかおかしくなってしまって大声で笑った。
「あはははははっ♪ マリーったら飛ぶならっもっとしっかり飛んでよねー? そんなんじゃいつまでたっても私を乗せて飛んだりできないわよ?」
「きゅー。きゅっきゅっ!」
マリーは少しだけしょんぼりしたそぶりを見せてから、がんばる! と言わんばかりにキリっとした表情をして羽根をバタつかせた。
「……マリー、あなただけは、ずっとわたくしと一緒に居てね?」
「きゅーっ!!」
一人と一匹は心を通じ合わせ、お互いを想い合い、きつく抱き合った。
『そんなに好きなら永遠に一つになってしまいなさい』
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