終 章(令和二十六年)

「ねぇ、それもらってもいい?」

 長いこと周囲を支配していた静寂を令次が破った。

「これ? こんなもの使うの?」

「使わないかもしれないけど、じいちゃんの宝物だろ」

 令次はクローゼットから大きくて重い箱を取り出す。


 ピロンという緊張感のかけらもない電子音が響いた。

「あ、じいちゃんの音だ」

「やだ、まだ来てる……」と昭子は気味悪そうに眉間にしわを寄せる。

 令次は敷きっぱなしになった布団の枕元から、型落ちの携帯電話を取り上げる。画面にたったいま受信したメッセージが表示されていた。


 ――#


 令次はすぐに察した。「#」はチェックメイトを表す。すべてが終わったのだ。


「あ、そろそろじゃない?」

 昭子が慌てて階下へと下りていく。少しあって、テレビの音声が聞こえてくる。令次にとって初めての瞬間だった。


「……閣議により決定いたしました。新しい元号は……」




 令和二十六年。私が死んで、令次が二十歳になった時の話だ。

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Chess & Chase Nico @Nicolulu

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