混濁の味

愛創造

混濁の味

 貴様はエラブネホテプを知って在るのか――俺の脳内に語り掛けてきた存在は闇黒神話の連中に違いない。過去現在、数多の戯れに出現する彼等の在り方。作品に注ぎ込まれた魂の発狂は、真実、俺のように『聴いた』結果なのだろう。エラブネホテプ。ナイアルラトホテップでもナイアグホグアでもウルターラトテップでも……聞いた事の無い名称だ。されど名前の所以を解く事は容易い。テネブラエ。暗黒の裏返し。即ち、光の存在なのだ。ホテプは満足させる、を、意味する――つまりエラブネホテプとは旧き神の一個体。音が嗤う――素晴らしい。やはり私の夢は正しかったのだ。貴様は生まれた瞬間、エラブネホテプを書くと決まって。


 ※※※


 夢は確かだった。俺は数年後にエラブネホテプを世に齎し、新たなる神話存在を『記して』しまった。だが。問題なのは此処からだ。俺は底辺の物書きで、ラヴクラフトの脳髄の一舐りすらも赦されない。哀れな筆を掴んだ人間は無価値な錯乱を垂れ流すのみ。ならば如何にエラブネホテプを伝えるべきか。答えは単純明快で在る。誰かの企画に参加してエラブネホテプを称えるのだ。エラブネホテプは記憶と記録を抹消された旧き神々の一個体……混濁させる力を有し、混沌の化身と時空の窮極、アザトホートを融合させた張本人……真実は永劫に鎖されてヌトセ……ああ。ああ。俺の精神に! 俺の脳漿に設定の渦が生じて在るのだ。もはや俺を。エラブネホテプの復讐を止められる存在は!


 ※※※


 貴様はエラブネホテプを知って在るのか――何だお前。急に何を呟いて――俺は知って在る。真逆、貴様は知らないのか。ハ、ハ、ハ……ふざけるなよ。阿呆だ。俺の設定に糞を塗るつもりだな。貴様はエラブネホテプを知って在るのか。知って在る。知って在るに違いない。さあ。貴様、貴様――お。おい。それは何だ。お前――ハ、ハ、ハ、ハ、ハ!!!


 ※※※


 俺はエラブネホテプの信仰者だ。俺を止められる愚者は存在しない。視よ。聴け。不信を抱いた莫迦の末路を。俺の右手に捕縛された奴等の心臓と脳髄を知れ。殺すべきだ。殺されるべきだ。俺のエラブネホテプを使わない輩は――おい。貴様。貴様だ。此れを読んでいる貴様だ。貴様は!


 エラブネホテプを知って在るのか!

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