俺と煙草と少女と布団

烏川 ハル

一人の男の独白

   

 大学生になって麻雀を覚えた俺は、サークルの先輩から「いつものメンツ」として呼ばれるようになった。

 大学院に通う先輩、あるいは、すでに大学の教員として働いている先輩……。そんな人生の先輩たちと卓を囲むのは、麻雀を楽しむ云々とは別に、素晴らしい経験だった。

 彼らは忙しいので、そうやって集まるのは、毎週土曜日。深夜一番遅くまで営業している雀荘が、待ち合わせの場所となる。夕方に集まって、店が終わる時間まで続く、私的な麻雀大会。


 俺は煙草を吸わない。煙草の匂いも嫌いだ。

 でも、雀荘にはタバコの煙が溢れている。土曜の夜の楽しみの中、その煙だけが、唯一、嫌な点だった。

 しかも。

 そんな『嫌い』な煙草の匂いを身に纏ったまま、帰宅する俺。疲れて、シャワーも浴びずに、そのままベッドに入ってしまうこともあった。


 やがて。

 それまでカノジョいない歴イコール年齢だった俺にも、初めて『カノジョ』という存在が出来た。

 一つ年下で、可愛らしい雰囲気。付き合い始めてからは、俺を「アキくん」と呼ぶ。そんな少女だ。

 それなりに幸せな日々を過ごしつつ、土曜日の麻雀の習慣は、依然として続いていたのだが……。


 ある時。

 俺の部屋で、ベッドの中の少女が。

 布団にくるまりながら、こう言った。

「独特の匂い……。これがアキくんの匂いなのね」


 違う。

 それは俺の匂いじゃない。

 布団に染み付いた匂いは、おそらく……。


 そう言いたかったが、なぜか言葉にならなかった。

 ただ俺は、黙って微笑むだけだった。

 そして。


 少しだけ、煙草の匂いが好きになった。



(完)

   

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俺と煙草と少女と布団 烏川 ハル @haru_karasugawa

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