エピローグ 葉桜揺れる、ある一日。

 都立高田高校を卒業した僕は、文学部のある都立の大学に進学した。結局、現実に戻ってから僕は、スランプを脱出して文芸部の部誌の原稿に励んだ。そして、一度断った演劇部の脚本も、引き受けることにした。それを告げたときの司の顔は面白かった。コンパスで描いたかのように丸い目をして「まっ、マジで?」と言い、喜んで演劇部の部長に連絡を取った。

 僕にオファーを出していた演劇部の部長は、どうやら本当に僕の文章に興味があったらしく、出会うなり「ネットにあげている作品は全部読んでますっ」と言われる始末だ。なるほど、福南彩実が男になるとこんな感じなのかなあと、内心苦笑いだった。

 そんなふうに、学祭が終わるまでは創作活動に力を全振りした僕は、後悔のない作品を高校最後に残したと思う。

 あと、単純にアドバンテージも大きく、受験もなんとかなった。


 司とは大学は別々になったけど、今でもたまに会っているし、僕原作、司漫画のコンビも継続している。まあ、やっぱり絵師である司のほうが即売会とか出ると人気あるけど。まあ、ご愛嬌。

 大学在学中も僕はどんどん小説を書いては新人賞に送った。結果はまちまち。最終選考一歩手前とか一度行ったこともあれば、一次選考落ちもある。

 そんななか、大学最後の春に、僕は一本の小説を書き上げ、賞に応募した。

 あの世界での日々を、綴ったものを。

 結果はどうだったって? まあ、いいじゃないか。全てを語るのがなんでもかんでもいいとは限らない。


 何はともあれ、ねえ。彩実。


 これで、いいんだよね?

 もう桜も散って葉桜になった神田川の並木を見上げつつ、僕はそう心のなかで呟く。

 そして。いつか、また始まるのだろう。


「ねぇ! 君の夢、叶えようか?」


 この僕の言葉を皮切りに。

 夢のような奇跡の時間が。

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僕は君との約束を、守ることができたのかな。 白石 幸知 @shiroishi_tomo

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