【KAC10】お題:『カタリ』 or 『バーグさん』
第10話 駄女神の復讐のやり方がダメすぎる件。
今日だ。
今日こそ決めるっ!!
あのクソ駄女神に、これまで一体どれだけ邪魔されてきただろう。
しかし、聖獣のトリと勇者のケンのカップリングでぎゃふんと言わせてやってからというもの、あいつの干渉はぱったりと止んでいる。
それでも、いつまた邪魔が入るかと思うと心休まらず、俺はみちるとのイチャラブの中で、なかなか最後の一歩を踏み出すことができずにいた。
だがしかし、町内会の旅行とやらで、互いの両親両親がそろって不在となった今日こそがチャンスだ!
今日こそ……
今日こそ俺はみちると────
「ハルト……恥ずかしいから、明かりを消して?」
ブラウスの前をはだけさせた姿でみちるが言う。
上気した頬を隠すように両手で顔を覆うその仕草に欲情が煽られ、俺の心臓や下半身は今にも暴発しそうだ。
「う、うん……。わかった」
努めて平静を装いつつ、俺はみちるに覆い被さったまま、枕元のリモコンで照明を薄暗くした。
アレはみちるが来る前に枕の下にセットしておいたし、準備にぬかりはない。
「みちる、好きだ」
「ハルト、あたしも……」
もう一度口づけを交わし、いよいよみちるのスカートに手を掛けようとしたその時────
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」
「きゃあぁっ!?」
「やっぱり来たか! てめえ、絶対俺らを監視してるだろ!!」
唐突に出現した光の扉から、かの大魔王の決めゼリフを叫んだ
「人聞きの悪いこと言わないでよ。ここんところ引き継ぎに忙しかったんだから、アンタ達のイチャラブを監視してる暇なんてなかったわよ」
「引き継ぎ……?」
駄女神の発したワードに俺とみちるが顔を合わせると、開きっぱなしの扉の向こうから、薄茶のショートボブにブルーグリーンのベレー帽を被った美少女がひょっこりと現れた。
「初めまして! この度セイシェル先輩の後任として異世界の女神を務めることになりました、AIのリンドバーグと申します。バーグさんって呼んでくださいね♪」
爽やかなオーラを振り回き、リンドバーグと名乗ったAIが笑顔で一礼する。
「ちょっと待て……。駄女神の後任って……」
「そう。私、今日限りで女神を辞職することにしたの」
セイシェルは涼しい顔でそう告げると、後輩のバーグさんの肩に手を置いた。
そして。
「後はこのバーグに任せてあるから心配いらないわ。アンタ達には色々と世話になったわね。それじゃ」
随分あっさりした別れの言葉を残して、駄女神はさっさと光の扉の向こうへと消えてしまったのだ。
「え? セイシェルは本当に女神を辞めちゃうの?」
予想外の展開に、呆然としたみちるがバーグさんに問う。
すると、バーグさんは困ったような笑顔を浮かべて頷いた。
「実は、セイシェル先輩は先日とある不祥事を起こして、上司から厳重注意を受けたんです。それで始末書の提出を求められた先輩は、“女神なんて辞めてやる!” って逆ギレして……」
「不祥事って、もしかしてカドカワンがらみか?」
「えっ!? どうしてそれをご存知なんです? 聖獣カドカワンと剣聖ケンのカップリングをセイシェル先輩がぶち壊そうとしていることが明るみに出て、天部が騒然となったんですよ」
バーグさんの語る事実に、俺は思わず頭を抱えた。
あの駄女神、まだケンのことを諦めてなかったのか。
異世界の平和を司る女神としては、聖獣カドカワンに後継を産ませて魔王の再誕を阻止し続けるのが務めのはず。
なのに、己の欲望のためにカドカワンの恋路を邪魔するなんて、確かに女神を辞めて然るべきだろう。
「セイシェルがいなくなったんならカドカワンとケンは
気を取り直してバーグさんにそう伝えると、バーグさんは再びぺこりとお辞儀した。
「わかりました。異世界に平和をもたらしてくれたお二人には、前任に代わり心よりお礼申し上げます。こちらの世界でどうぞお幸せに」
笑顔の可愛いバーグさんは、愛嬌たっぷりの身のこなしで光の扉をくぐり、パタンとそれを閉めた。
再び部屋が薄暗くなる。
「……色々あったけど、セイシェルと二度と会えないと思うとちょっぴり寂しいね」
しばしの沈黙の後に、みちるがぽつりと呟いた。
思わず頷きそうになり、俺は慌ててそれを否定する。
「AIが女神になる時代の流れには驚愕するが、バーグさんはしっかりしていそうだし、これであっちの世界も安泰だろ。俺たちももうあいつに邪魔されることも、異世界で酷い目にあうこともなくなるし、いいこと尽くめじゃないか」
そうは言いつつ、俺の中でも何となくモヤモヤとしたものが残るのは確かだ。
俺をフクロウに転生させた駄女神。
俺とみちるを暴れ馬で跳ね飛ばそうとした駄女神。
俺たちに異世界のカラス退治をさせた駄女神。
ケンと語らった男同士の熱い三分間を台無しにした駄女神。
俺たちがトリとケンのカップルを成立させた時、あいつは近いうちに恨みを晴らすと宣戦布告してきたはずだ。
それなのに、こんなにあっさり姿を消していいのかよ、
せっかくのチャンスの夜だったのに、俺の心にはなかなか塞がりそうもない小さな穴が空いたような気がした。
みちるもそれは同じのようで、俺たちは結局その晩は二人でテレビゲームに興ずることで、拭いきれない寂しさを誤魔化したのだった。
☆
そんなことがありつつも、穏やかな時の流れは俺たちを平穏な日常へと
しばらくして異世界のことも駄女神のことも二人の話題にのぼらなくなった頃、俺に再びチャンスが訪れた。
「みちる、いい…………?」
熱を孕んだ俺の問いかけに、カーペットの上に組み敷いたみちるがこくりと頷く。
何の憂いもなくなった今日こそ、俺はみちると────
「大変ですっ!! ハルトさん、みちるさん、助けてくださいっ!!」
背中越しにバーン! と勢いよくドアの開く音がして、バーグさんが光の扉から飛び出してきたのだ。
「何なの!? 俺たちの邪魔をするのが異世界の女神の仕様なの!?」
「冗談を言っている場合じゃないんです! セイシェル先輩が……」
久しぶりに聞くその名前に、嫌な予感が背筋を駆け上がる。
「セイシェル先輩が……異世界で大暴れしているんです!!」
「「はあっ!!?」」
バーグさんの叫びに、俺とみちるは素っ頓狂な声を上げた。
「とにかく今すぐ異世界に来てくださいっ」
有無を言わさぬ勢いでバーグさんに背中を押され、俺とみちるは戸惑いつつも光の扉を久々にくぐることになった。
そこで目にしたのは────
「オーホホホ!! ハルト、みちる、よく来たわね! 今こそ復讐の時よ。この世界共々、アンタ達を吹き飛ばしてやるわ!!」
神々しかった白いドレスを漆黒に染め、高らかな笑い声と共に爪の先から黒炎を放つセイシェルの姿だった!!
「ホー!? (セイシェル!! 気でも違ったのか!?)」
フクロウの俺に向かって放たれるビームを飛び回って避けながら俺が問うと、セイシェルはまた高らかに笑う。
「相変わらず失礼な奴ね。私は至って正常な思考回路で、自分の身の振り方を決めたのよ。今の私は “堕天使” ならぬ “堕女神” 。私の恋路を邪魔した恨みを晴らすべく転職したのよ。ハルト! アンタは私の愛馬 “黒王号” に蹴られて異世界で死んでしまいなさいっ!! 」
堕女神がそう言うが早いが、どこからかバカでかい馬が煙を上げて突進してきて、俺は慌てて上空へと避難した。
巨大な暴れ馬とか、黒王号っていうパクリネームとか、駄女神ならぬ堕女神はヤバさも増し増しになっているな。
俺がぶるりと羽を震わしたその時だった。
「ハルトーッ! ミチルーッ!」
「ウチらも加勢するポ!!」
俺の鋭い聴覚が、懐かしい声を感知する。
「ホー!(ケン! トリ!)」
「えっ!? 二人が駆けつけてくれたの?」
「ちょうどいいわ。イチャラブこいてるリア充どもは、この際だからみんな黒王号に蹴られておしまいっ!」
「きゃあっ!」
「ホーッ!(みちるっ!)」
みちる目掛けて走り来る馬を猛スピードで追随した俺は、黒光りするそいつの尻に鋭い爪を突き立てる。
「ヒヒーン!!」
前足を上げて叫んだ黒王号は、パニックで方向を見失い、正反対の方角へ走り去っていく。
「チッ、余計なことを。魔王が復活しないんなら、私がこの世界を牛耳ってリア充どもを駆逐するんだから!」
「ホー! (世界征服の理由がそんなちっちぇえ私怨かよ!)」
俺たちの元へ駆けつけたケンとトリ。
そのすぐ後から、魔導士のレンが飛んできた。
遠くから馬で駆けてくるのは、防御系魔導士のカタリィ・ノヴェルに違いない。
テイマーのみちるとフクロウの俺。
勇者ケンと二人の魔導士、レンとカタリ。
魔王討伐を果たしたパーティメンバーが今ここに再集結する。
「聖獣のウチがいる限り、堕女神の好きにはさせないポ!」
全身に聖なる力を漲らせたトリが、自信たっぷり宣言する。
「あわわわ……どうなっちゃうか分からないけど、新任女神としてあなた達を応援します!」
オロオロしていたバーグさんも腹を決めたようだ。
「ホー!(このメンバーなら堕女神に負ける気がしねえ! 俺たちの戦いはこれからだ!)」
「面白い。受けて立とうじゃないの!」
こうして、マジでラスボスと化したセイシェル相手に、フクロウとしての俺の
(つづく)
……と見せかけておわりです。
全十回のシリーズご愛読、誠にありがとうございました❁.*・゚
俺たちを異世界転生させた駄女神がひどすぎて泣けるんだが。 侘助ヒマリ @ohisamatohimawari
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