呪剣オンルッカー

「やめときなよ、絶対危ないって」

 そう言ってくるのは、仲間の女僧侶だ。修道院に馴染めず冒険者になったはぐれ者だが、俺とは気が合って長くパーティを組んでいる。

「大丈夫だって、安いし。だめなら捨てればいいだけだ」

 そういって、武器屋で投げ売りされていた“いわくつき”のロングソードを手に取っている俺はうだつの上がらない中堅冒険者でありふれた戦士だ。

「確かに雰囲気はあるよなぁ」

 そういって改めて、そのロングソードを見る。名前は呪剣オンルッカーとかいうらしいそれはいわゆる呪われた装備品だ。刀身はごく普通だが鍔のところにはめ込まれた石とその周りの意匠がまるで目のようで気味が悪い。

「前の持ち主も、その前も、皆気がふれたらしいじゃない。そういうのは関わっちゃだめだって」

 普段は僧侶らしいことをいわないこの仲間が珍しく食い下がる。

「確かに今持ってるだけで妙な感じはするというか、気味が悪いけど気がふれるとか大げさだって」

 そう言って結局そのロングソードを買うことにしたが、店主があからさまにほっとしていたのがまた頭にきて、意地でも使いこなしてやろうという気になった。


 結果として、呪剣オンルッカーを買ったことは大正解だった。

「すごい! めっちゃくちゃ強いじゃんか!」

 女僧侶が飛び跳ねて喜んでいる。俺もガキの頃のようにわくわくとした気持ちを感じているから人のことはどうこういえないが。

 俺たちはダンジョン、地下へと続くモンスターの巣窟で幾度かの戦闘を終えたところだった。結果は上々も上々、普段は二人がかりでなんとか仕留めるような強敵を二、三度斬りつけただけで倒せてしまった。単に切れ味が鋭いだけでなくて持っているだけで力が湧いてくるのが実感できる。

「強い連中はこういうのを持ってたから結果が出せてたんだな。これはすごいぜ、・・・ん?」

「どしたの?」

 喜んでいた所で他のモンスターかあるいは別のパーティの気配を感じた気がして振り向いた、が何もいなかった。女僧侶もきょとんとしているし勘違いだったようだ。

「なんでもない。この呪剣がすごすぎて気が立ってたかな」

 その後も何度か戦闘を繰り返し、この日はそれまでにない稼ぎとなった。


 そして調子よくダンジョンでの稼ぎを続け、俺たちパーティの名声も少しずつだが高まってきていた。

「強くなるってのは気分がいいな。ま、この呪剣オンルッカーのおかげなんだが」

 言いながら、途中で二度ほど後ろを振り向く。最近の癖になってきてしまっている。

「本当に大丈夫なの? 最近、なんていうか挙動不審だよ?」

「いや、気配というかじっと見られている気がしてな。俺たちの調子が急によくなったから、どっかのパーティに探られてるんじゃないかと疑ってるんだが・・・」

 行儀のいいことではないが、別パーティを偵察して強さの秘密を探るというのはわりと横行していることだった。真似できるようなことならした方が得に決まっているからだ。しかし、何度見回してみても視線の主は見つけられない。勘違いか・・・?


「なんだ、お前ぇ! 俺が誰だと思ってやがる!」

「何もしてねえだろ、俺は。何なんだよお前はいきなり!」

 数日後、相変わらず姿の見えない観察者にイラついていた俺は、街の通りで他の冒険者とケンカになっていた。

「やめなって! どうしたの突然」

 女僧侶が必死になって止めてくる、しかし今も、誰かに見られている。こいつだけではない?

「この野郎がじろじろ見てたから思い知らせてやっただけだ」

「だから、見てねえって何度もいっただろうが!?」

 唾を飛ばして言い訳してくるが、その間も視線は感じられる。ケンカの野次馬じゃないな。

「お前の仲間も隠れて見てるだろうが!」

「ホント訳わかんねえよ、こいつ! おかしいだろ!」

 見ている? うん、確かに見られている。隠れているつもりだろうが俺にははっきりと分かる。じろじろ見るな。

 結局途中で衛兵たちに囲まれて、詰め所で夜までこっぴどく説教をされることになった。


 それから数日、相変わらずだ。見られている。いや、むしろ増えているかもしれない。

「ねえ、その呪剣を使い始めてからだよね。あんたやっぱりおかしくなってるよ。それ捨てようよ」

 最近は目が合うと俺が激怒するからか、目線を下げて話しかけるのが癖になってきた女僧侶が、今も俺の靴のあたりを見ながら言ってきた。今も見てるな。

「は? 関係ないね。それより段々と視線がはっきりと感じられるようになってきた。もう少しで特定できそうな感じだ」

 辺りを幾度も見回しながら言う俺に、女僧侶はそれ以上何も言わなかった。そっちか?


 さらに、数日。じっと見ているな。あっちの方だ。

 視線を探るのに邪魔になるから、昨日から女僧侶とは別行動をしている。見るな。ほっとしたような態度が気に障ったが今はそれどころじゃない。数人? いや数十人か?

 さっき気付いたが呪剣オンルッカーの柄を強く握ると、見るな、視線の位置が探りやすくなるようだ。見るな見るな。

 何日も気にし続けたからか、見るな見るな見るな、かなり視線を追えるようになってきた。見るな見るな見るな見るな。犯人を見つけるのも時間の問題だ。見るな見るな見るな見るな見るな。


 あっちか? 見るな見るな見るな見るな見るな見るな。いや違う、方向とかではなくてもっと・・・。見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな。深いところだ、もっと深くて遠いところ。


 見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな













 やっと 見つけた、  俺をずっと   見てたのは    お前だな?




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異世界の不思議 回道巡 @kaido-meguru

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