第28話 ジョーイ4、

 早く準備しろよと急かすジョーイを無視して、僕は部屋を観察した。

 中央に大きめの机に椅子が四つ。椅子にはそれぞれに色もスタイルも違うジャケットが背もたれにかかっていた。革製の真っ赤なジャケットが目に飛び込んでくる。どうしても手にしたいとの衝動と戦っていると、そのジャケットが自ら僕に飛びかかってきた。腕を引っ張り、無理矢理に袖を通す。着心地は最高だった。けれど時折、勝手な動きをする。全ての壁にビッシリと並んでいる本棚から数冊の本を勝手に取り出したり、床下からなんだかよく分からない非常食と思われる木の実のような物を取り出したりする。

 炊事場は外からの入り口から見て部屋の左側にあり、右側には大きめのベッドがあり四つの枕が並んでいる。

 炊事場には地下水を吸い上げる水場もある。その周りに果物や野菜、魚や肉が置かれている。料理をするための台の上には見たこともない調味料が置かれている。

 火を熾すためのスペースも用意されている。白くなった木炭も、真っ黒な木炭もある。鉄製のように見える鍋のような物や、おたまや包丁やらスプーンやら箸もある。

 ベッドの下には棚があり、きっと洋服があるんじゃないかって思われた。はみ出した紫の布からそう想像した。

 そんな部屋の中で、たった一つだけまるで理解の出来ない物があった。

 それは中央の机の下にあった。

 ヒョウタンのような形をした鉄っぽい塊と、野良猫ほどの大きさの木製らしき三角錐。

 僕は屈み込んでその二つを眺めていた。するとジョーイが、そいつに気がつくってのは流石だがな、今はまだ早い。もう少しこの世界を知ってからだな。そいつが必要になるのは。ジョーイがそう言った。

 そんなことを言われると、僕はムキになる。その二つを引っ張り出し、赤いジャケットが掛けられていた椅子に座っていた真っ黒なカバンを引っ張ってきてそこに入れようと考えた。

 けれどその二つは僕の力ではビクとも動かない。どうしようかと思っていたら、手に取っていたそのカバンが勝手に動き出した。

 まったく、世話の焼ける奴だな。そんな声がカバンから聞こえてきた気がしたが、そんなはずはない。僕は直ぐにジョーイへと視線を飛ばした。

 そのカバンはお前のだよ。どうやらお互いに気が合うようだな。そんなジョーイの言葉を無視した僕は、カバンに目を向け直した。

 いつの間にか僕の手から離れていたそのカバンは、自らの意思で二つの荷物を取り込んだ。

 肩から下げるタイプのそのカバンは、中学校時代の学生カバンと同じ形をしている。素材は違うように見える。僕が使っていたの帆布生地で、目の前のはなにかの革製だと思われる。ピラピラと開く蓋が、勝手に動いていた。

 お前達の世界の常識は、ここじゃああまり通用しない。そのくらいはもう分かっているだろ?

 けれど、カバンだよ?

 そうだよ。カバンなんだよ。

 僕の間抜けな言葉に反応をしたのは、ジョーイではなく、そのカバンだった。

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