第30話 ジョーイ6、
僕はまだ部屋の中にいた。なにかがおかしい。訳も分からずにそう感じながら部屋中に視線を配った。改めて眺めると、壁にビッシリと並んでいる本の異様さが目立つ。僕の家にあるペラペラの本とは違い、どの本も三倍は分厚く、しっかりとした背表紙がその内容を見ずとも難しさだけは伝わってくる。
なんて言いながらも実際はごく普通の物語だったり、つまらない学術書的だったり、読んで見なければ内容なんて分からない。タイトルだって当てにはならないことが多い。
けれどその時、僕には分かった。全ての本の内容が分かった訳ではないけれど、その時の僕に必要な本がどれなのかが分かったんだ。
数えて七冊の背表紙が、僕には輝いて見えた。僕はその全てを手に取り、カバンに渡した。カバンは一冊ずつ取り込んでいった。
さて、準備は整ったよ。二人を探すと言ってもさ、どこか当てでもあるわけ?
開け放たれたままのドアから外に出て、そこにいるはずのジョーイに向かってそう言った。
しかしジョーイの姿は見えない。またか・・・・ そう思った。二人のように、ジョーイも誰かに連れ去られたのか? それとも単なる気紛れ? 僕は一人、どこかへ行かなければならないのか? 背後のドアが自然と閉じる音がして、僕は振り返った。スライドパズルの動きの、始まりだ。
なんのための回転かは想像がつく。カナブンに乗ったジョーイがやって来る。僕はそれに乗り込み、二人を探しに行く。当然の想像をしていたのは、そうなる以外の想像が出来なかったからだ。そして、そうではない現実が待っているかもとの期待もこもっていた。
しかし、期待は裏切られるのが世の常なんだよ。
ただし、少しの驚きは待っていた。
どうだ? やっぱりカナブンはこの色だろ?
運転席の窓を開けて顔を出し、ジョーイがそう言った。
ま・・・・ なんてことだよ! それじゃあ本物のカナブンじゃないか! 今にも網戸に張り付きそうだ。
それのなにが悪い? 俺はやっぱり、カナブンらしいカナブンが好きなんだよ。フォルムだけ真似るなんて、つまらないだろ? 売れる前のエアロみたいだ。突き抜けるためには、徹底した模倣も意味があるんだよ。そこから生まれる個性だってある。さぁ、早いとこ乗り込みな。今のコイツは気が短いんだ。さっさとしないと飛び出しちまうぞ!
ジョーイがそう言うと、カナブンはまるでその羽を広げるかのように左右のドアを開けた。
あれ? ドアが上に持ち上がっている。カナブンのドアはそんな仕様じゃなかったはず。戸惑う僕に、ジョーイは笑顔を見せる。
カナブンだって生きているんだ。それらしいカラーにチェンジするだけで、本来の姿を取り戻すんだよ。
カナブンのエンジン音が、甲高く荒野に響いた。
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