あなたを想う【帰還エンディング】

 

「本当に帰ってしまうのね……」

「はい。お世話になりました。お嬢様」

「元気で暮らすのよ」

「わたしたちのこと、絶対忘れねぇでくれよ? 義兄さんも!」

「ああ、もちろん」


 お嬢様とレオの結婚式翌朝、俺と真凛様は王の謁見の間に来ていた。

 乙女ゲームの、破滅エンドしかないうちのお嬢様。

 レオと——戴冠式を終えて、この国の正式な国王となったレオハールと結婚し、王妃となった。

 つまり、うちのお嬢様の破滅エンドはこれでなくなったのだ。

 俺はお嬢様を、破滅エンドから救済した——ってことになる。

 長かったなぁ、とまた泣きそうになる。

 それを耐えて、みんなの顔を見た。


 ケリー、ヘンリエッタ嬢と結婚を控えている。

 その結婚を見届けてからでもいいだろう、と言われたが、そこまでいたら心が揺らぎそうなんだよ。

 でもお前ならきっとリース伯爵家——もとい侯爵家を、必ずより良い未来に導いてくれることだろう。

 ヘンリエッタ嬢……いや、佐藤さんをどうかよろしく頼む。


 スティーブン様、ライナス様。

 スティーブン様は次期宰相となるべく、父である現宰相様と城で仕事するようになった。

 ライナス様は騎士団に正式に入団。

 家には武勲がなければ帰ってくるな、と言われているらしい。

 それがなければ、スティーブン様との結婚も認めてもらえないそうだ。

 けれど、二人のことだからどんな困難も乗り越えて結ばれるだろう。

 最初は「開いてしまったのか、その扉を……」と思わんでもなかったが、今は心の底から幸せになってほしいと思うよ。


 エディンとマーシャ。

 こちらの二人も結婚秒読み。

 問題はマーシャの花嫁修行が遅々として進まない点である。

 この辺りはエディンも頭の痛い問題らしいが、人には得手不得手があるから仕方ない。

 マーシャ、公爵夫人となれるのだろうか。

 俺は不安しか感じないよ……。

 け、けどまあ、そんな公爵夫人でもいいっつーんだからエディンは懐が広い。

 レオのことも、マーシャのことも任せられる男がエディンというのがなんともムカつくけど。

 思えばエディンとは本当に関係が180度変わっちまったなぁ。

 お前がいるから安心、ってやっぱムカつくけど。


 ハミュエラとアルトとラスティ。

 この三人は卒業後、各々の領地に戻り跡を継ぐことになるだろう。

 ハミュエラは芸術家肌なので、西は引き続き芸術の地として栄えるだろう。

 卒業後はクレヴェリンデのところ、人魚族の国に芸術を学びにいくと言っていたな。

 アルトはアニムと面会し、今も魔法で連絡を取り合うくらい、いい友人となっている。

 卒業後は妖精族の国に留学することになっているそうだ。

 頼もしい。

 ラスティもまた、歴史の古いエルフの国に留学に行くと言っていた。

 この三人はこれから他国の文化を吸収して、『ウェンディール王国』へ貢献してくれるだろう。


 メグとクレイ。

 二人は結婚することにしたそうだ。

 ヘンリエッタ嬢の影の苦労が報われたな。

 結婚後は『獣人国』へかの国の亜人を迎えに行くと言っていた。

 それから、色々なわだかまりを溶かしに行く。

 亜人族にとって、獣人と人魚族は人間族と交わった大元の種族といえる。

 これからこの二つの種を中心に、亜人族は人間族のように“認められる”努力を続けることになるだろう。

 だがまあ、今度は天神族のお墨付きもある。

 クレイとメグなら、きっと大丈夫だ。


 ルークはケリー付きの、リース家の執事になる。

 結婚はまだ考えてない、とのことだが……さて、例の横綱令嬢とはどうなるんだろう?

 気にならないこともないが、ローエンスさんや旦那様、ケリーもいるしきっと何事も上手くいくだろう。

 あの三人の曲者っぷりは……考えるまでもないので。


 そして、レオとお嬢様。

 この二人に関して語ることはない。

 レオは王になったし、お嬢様は王妃になった。

 俺が見届けたのだ。

 うちのお嬢様の破滅エンドは完全に回避。

 今も幸せそうに寄り添っている。

 なにも不安はない。


 だから俺は、ティターニアの力を手に入れたエメリエラの力で、真凛様と共に地球へ帰ることにしたのだから。


「見つかるといいな、妹」

「ああ」


 ケリーの言葉に頷く。

 地球に帰る理由は俺の死の原因となった妹の行方不明。

 前世の妹、みすずがどうなったのかを、俺はどうしても確かめたいのだ。

 それだけが心残りで、お嬢様を破滅エンドからお救いできた今、それを解消することにした。

 真凛様もいるし、ヴィンセント・セレナードとなった今、水守家には帰れないけれど……まぁ、なんとかなるだろ、多分。

 それにもう一つ。

 真凛様が持っていた『麒麟の鱗』もちょっと気になってたんだ。

 あれは昊空泰久——空風マオトたる真凛様の兄君が真凛様に渡したもの。

 なんだってそんなガチの神アイテムをアイドルが?

 やはり空風マオトは神だったのか?

 文字通り?

 うーん、わからん。

 わからんが、真凛様と戻ってお会いできるならお会いしてサインを貰いたい。

 あわよくば握手も。

 そんでもってもっとあわよくばリント様にご紹介願えないだろうか。

 はい、下心しかありませんが、なにか?

 いや、まあ、もちろん真凛様の将来も考えてるよ?

 こっちで学んだことは、絶対向こうの世界にも通用するし。

 真凛様のご家庭がクソという話は聞いているので、とりあえずご両親は一発ずつ殴らせていただきたいじゃん?

 ぜひぜひご挨拶させていただきたいわけよ、うん。

 と、総合的に考えて俺は真凛様と地球へ帰ることにしたわけだ。


「…………」


 二度と、この人たちには会えないだろう。

 みんなの顔をまた最初から見つめていく。

 悲しいし、本当なら……と、思わないでもない。

 けれど俺は帰るよ、前世の世界に。

 ひと段落ついた今、みすずのことが気になって仕方ない。

 マーシャは自分以外に妹がいたのが絶妙に気に食わないようだが、俺がどういうやつか知ってるからあまり反対しなかった。

 レオたちも。


「お世話になりました」


 真凛様が頭を下げる。

 涙を堪えるスティーブン様が可憐で可愛らしいのだが、その横でガチ泣きしてるライナス様にちょっと俺の涙が引っ込みかける。

 レオとお嬢様の瞳も少しだけ涙の膜。

 マーシャに至ってはライナス様並みにぽろっときてる。


「お嬢様、お幸せに」

「……大丈夫よ。あなたもね」


 最後に、手を差し出された。

 握手して、離れる。


「ありがとう!」

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました! ……みんな……元気で……」


 光の粉が舞う。

 体が浮かび、みんなの姿が光の中へと消えていった。

 真凛様と強く手を握りあい、浮遊間に身を任せ、視界が光で白くなるのに目を瞑る。

 ……不安はもちろんあるけれど、真凛様の手の温もりに集中すればなにも怖くない。

 お嬢様——ローナ様、本当にありがとうございました。

 名を、居場所を与えてくれて。

 俺はあなたから旅立とうと思う。

 あなたに与えられたものを、俺は返せただろうか?

 少なくともレオならあなたを絶対に破滅させたりはしないだろう。

 あなたはもう、『フィリシティ・カラー』の悪役令嬢ではない。

 だとしても、あなたは俺の永遠の推しの一人であることに変わりはありません。

 あなたの幸せを望まない日はないです、この先も一生。


「っ! ……地球……」


 懐かしい、あの世界。

 世界が変わっても、結ばれた縁は必ずまた、どこかで、なにが起きてもあなたを守るでしょう。

 それは、確信で、必然だ。


「ヴィンセントさん——鈴城さん」

「!」

「おかえりなさい!」

「……ただいま戻りました」


 あなたを想います、いつまでも、どこにいても。





 END

******

『うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。』を最後まで閲覧いただきありがとうございました。


本来は『一年生編』で終わるところ、書籍化に伴い『戦争編』までズルズルと延ばしましたが気づくと投稿から三年……四年? ほぁー。


書籍の方はカドカワBOOKS様より発売中です。

書き下ろしやあれだけでも読めるようにまとめたつもりなので是非、お手に取っていただければと思います。

デビュー作なので今読み返せばきっと拙い部分もあるでしょう。

それでも一番楽しく書いていた時期のお話が詰まっているので、私としても大変思い入れが深いです。


また、コミカライズもマンガアプリ、マンガupさんで連載中です。

コミック1巻も発売中ですので、そちらもどうぞよろしくお願いします。


色々、語りたいことは多いですが、飲み込みます。

もう私一人の作品ではなくなりました。

嫁にも出したし婿にも出した感じです。


それでもWEB版の完結まで熱量絞り出して書き切ったのは、やはり愛ゆえに。

愛しい我が子。

たくさんの人に読んでもらえてよかった。

ありがとう。

生まれてきてくれてありがとう。


では、改めまして最後まで閲覧ありがとうございました。

古森でした。

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うちのお嬢様が破滅エンドしかない悪役令嬢のようなので俺が救済したいと思います。 古森きり@『不遇王子が冷酷復讐者』配信中 @komorhi

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