あさがたよるがた
深見萩緒
あさがたよるがた
朝に強い朝型人間、朝に弱い夜型人間。この生活リズムは遺伝子によって決定されており、個人の努力では変えることができない。夜型人間が無理に朝型のリズムで生活をすると、様々な病気のリスクが上昇するのだという。
現代社会はいわゆる「朝型社会」である。ほとんどの人間が「朝早く起き、学業や仕事に励む」生活を強いられている。
それはつまり、生まれつき夜型である人間だけが「早死にをするリスク」に晒され続けなければならないということである。それは明らかな「不平等」だった。
そういった社会構造に、人々は異を唱えた。
「みなに等しく、リスクの少ない社会を作ろう!」
人類が文明というものを手に入れて一万年弱、社会はようやく「文明的」に収束し始めていた。争い合い、物質や心の不足を奪い合う野蛮な時代は終わりを迎えた。他者を思いやり、他者の幸福を心から望む、真に「文明的」な境地。その高みへと、人類はようやく至ったのだ。
その流れが生まれてからは早かった。朝型夜型だけではなく、様々な「不平等の種」が問題として取り上げられた。
例えば、生まれつき障害を持っていること。例えば、片親であること。例えば、人より少しだけ頭が悪いこと。人より少しだけ見た目が悪いこと。人と関わることが苦手なこと。
世の中には様々な「不平等」が存在する。それら個人の不平等はやがて社会全体の不平等へと発展し、それが人類間の軋轢を生むのだ。それらをなくしてしまえば、世の中はもっとよくなるはずだ。誰もがそう信じ、理想の社会を築かんと喧々諤々の議論を繰り返した。
「そうして今の社会があるわけですが、なぜ我々人類は、このような簡単なことにこうも長い間気が付かなかったのでしょうね。社会から不平等をなくせば、人間同士の争いはなくなり、世界は平和になる。少し考えれば分かりそうなものですが」
テレビの画面で、ニュースキャスターが早口で喋る。
「どのようにお考えですか、解説のNさん、お願いします」
キャスターに促され、彼女の隣に座っていた若い男が口を開く。
「手段が確立していなかったという点が大きかったのだと思いますね。社会を平等にするためには、多大なコストがかかります。『不平等の種』を全て排除しなければならないのですから」
なるほど、とキャスターが頷いた。
「昔は、『中年』……つまり肉体が衰え始めた人間のことですが……そういった人々も生存を許されていたそうですからね」
「ええ、今では考えられないことですね。更に時代を遡れば、視力や聴力といった五感、コミュニケーション能力という人間に不可欠な要素、それらを欠いた人間も処分されない時代があったというのですから、恐ろしい話です」
「Nさん、ありがとうございました。報道特集『人類はいかにして文明的生物となり得たか』、続きまして街頭インタビューです。東京のYさん!」
「はい、東京渋谷区から中継いたします……」
画面が切り替わり、若者がひしめく渋谷の街が映し出される。「生存を許された」人々が、平和で平等な世の中を謳歌し笑い合う声、人通りの多い交差点のざわめき……。
あさがたよるがた 深見萩緒 @miscanthus_nogi
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