胸のうち

草群 鶏

胸のうち

 甘い香りが、漂っている。

 その胸の、あばらの檻に抱かれた、赤子の頭ほどの蕾。

 ひとたび咲けば、この世のあらゆる厄災を祓い、奇跡を招くという伝説の花。

 それが此度の贄に弟の身体を求めたのだ。

 弟。

 私が欲してやまず、しかし決して手に入らないはずだった男。

 胸元がめり、と裂け、香りがいっそう強くなる。その面差しにおちる翳は、この期に及んでいっそう好ましい。

 ―――その命尽きるならば、我が生涯をかけて世界を呪おう。

 ―――永らえたならば、我が生涯をかけて貴方を愛そう。

 想いはすでに重たい粘度をもってどくどくと私をめぐる。

 どう転んでも地獄は地獄。昏い予感に笑む私に、蔦の絡んだ腕が伸びる。

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胸のうち 草群 鶏 @emily0420

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