ep:6男子高校生の日常
工業高校が普通科高校と違う点として、「レポート」がある。
工業なので当然実習があるのだが、これが終わるたびにレポートを提出しなければならない。
ひとつの実習は概ね4週間以内で終了する。それらのレポートは、学期末の最終期限に遅れると単位不認定となり、留年が決定する。
とはいうものの、過去には期限日を60日オーバー、最終期限を20日オーバーしたのに進級している奴もいる。教師陣は脅かしはするものの、結局単位不認定は回避させてくれるわけだ。ありがたいことだが、もっと偏差値が上の工業高校だと普通に単位不認定になることがある。
工業高校は、本校に限らず全国的に教師から生徒への干渉が多いのが特徴だ。ちょうど中学校を緩くしたような感じだと思ってもらえればいい。いい意味でも悪い意味でも。
そして就職者がとても多い。大学ならば多くのことを自分でやらないといけないが、高校だと就職先とのやり取りを学校側がやってくれることが多く、ガイダンスなども学校が斡旋してくれる。
就職のためには生徒が好きなようにやっていればいいなんてことはあるわけがなく、中学校ほどではないが教師からの縛りが多くなり、結果的に干渉が多くなるのだ。
実際クズな教師も多く、ああはなりたくねぇという悪い例な人間がたくさんいる。それでもいつも面倒見ている(迷惑極まりないが)ので愛着が湧くのか、生徒に情けをかけて結局OKということになるらしい。
まぁそんなのが工業高校だから、少なくとも本校ではレポートが遅れて留年した奴は聞いたことがない。
しかし、いくら留年しないとは言ってもレポートはめんどくさい。こんなのはどこの高校にもいると思うが、とにかく嫌味を言い続ける教師、後で言われないと気付かないようなことを書かせる教師もいる。
書くのが大変だけならまだいいのだが、全然通らない場合はもう最悪だ。
本校のそれにあたる教師は本当にクソ野郎で、1回目出した時に訂正の指示をされ、その通りにして再提出するとそんな書き方するなと言われたりする。常に人を小馬鹿にしたような笑い方をし、授業で解答を配布しても間違いだらけだ。
俗に言ういい先生もたまにはいるが、どこもこんなもんである。科によって相当教師の質が変わるが、我らが情報制御技術科の教師陣はまともなのが少ない。酷いハズれを引いちまった。
ここまでずっと恨み言を言っているが、なぜかというと今日は先ほど挙げたクソ教師のレポート書いているからである。もう既に3回提出しているが全然通る気配がない。ちなみに期限は一昨日だ。
休日だというのに学校に来てレポートを書いている。同じクラスの田畑と鈴木も一緒だ。三人寄れば文殊の知恵というやつだ。まぁしかし俺を含むこの学校の奴らでは、1を3つ足しても2にしかならないが。
そろそろ12時やんけと思っていると、
「腹減ったぁ、誰か昼飯買って来てくれぇ!」
と鈴木様からのお言葉である。しょうがないから買ってくるか...。
なんてことは絶対しない。一番近くのコンビニまで2kmあるんだぞこの学校。
「やだよ。じゃんけんな」
と俺が言うと、
「ええぞ。寒くても行けよ。絶対だぞ。」
と田畑が言うので、3人でじゃんけんした。
「最初はグー、じゃんけん...」
そして...。
田中は俺と同じパー、鈴木は...。
「Fuuuuuuuuuck!!!」
との声があがる。
まさかの言いだしっぺ鈴木の1人負けである。俺は勝った。やはり私はニュータイプなのであろう。人類の救世主だ。大丈夫。巨大構造物を南米狙って落としたりせんし、元要塞の小惑星も落とさんよ。
「えーマジかよ!お願い、一緒に来てくれ。な、おごるから。100円。」
と、鈴木が何か言っている。誰が行くか。
それに対し、田畑が
「100円じゃうまい棒20本買えねぇじゃねぇか。1人で行きたくなかったらもっと上げろ。」
とか絶対うまい棒買わないのにそういうこと言って脅迫するので、結果鈴木は俺ら2人に合計400円おごることになった。ざまーみろ、最初に行ってくれとか言わなけりゃよかったんだ。
3人で外に出るが、もう3月とはいえかなり寒い。やっと最高気温が10℃弱になってきた程度だ。
さっき言った通り、この学校から最寄りのコンビニまでは2kmほどある。歩いていくとかなり時間がかかるため、部活に来ている奴らからチャリを借りて行くことにした。
剣道部の稽古場が近いため鈴木と田畑はそちらに行ったが、今日は自主練らしいから3人分も借りられるか分からない。しょうがないので少し離れた体育館に行き、バレー部の奴のMTBを借りさせてもらった。
チャリを借りて校門近くに行くと、2人とももう準備万端で待っていた。
「2年でチャリで来てるやつが1人しかいなかった、危ねぇー」
と田畑が笑いながら言う。
「じゃあどうしたんだ」
「いや、3年の先輩に借りただけだよ。」
鈴木がニヤニヤしながら、
「歩いて行きゃよかったじゃねぇか、つまんねぇなぁ」
と言うと、案の定田畑が
「あ?お前おごり300円にすっぞ」
とか値段を吊り上げようとする。クッソくだらねぇ冗談だが笑いの沸点が低くなっているため、ひとしき笑ってから出発した。
俺はMTBだが2人はただのママチャリなので、お前速いぞセコいぞチャリ代われなどと言われながら5分程度でコンビニに着いた。
ブリトーと鈴木のおごり代でチーズバーガーを選び、温めてもらう。コンビニの電子レンジは出力が高いのか、どこももすぐ終わる。どのくらいの出力なのか後で調べてみると決め、先に出た田畑に続いて外に出た。
すぐに鈴木も出てきたのでまたチャリに跨って帰ろうとしたら、環境科学科のカップルが1組、店内に入っていった。
会話が途切れる。雰囲気が尖る。そのまま無言で走り出す。ちなみに盗んだバイクではない。
「カーッ!!なんなんマジであれ!!」
「工業高校じゃねぇだろ環境科学の連中」
「ちょっとね、自宅謹慎してもらうべきじゃね」
下り坂を飛ばしながら恨み言が噴出する。爆発して欲しい。
なんで同じ高校なのに環境科学の連中はあんなにカップルが多いのであろうか。要検証である。ちなみに電気情報科は他校の女子と付き合っている奴が多いらしい。
...陰キャが集まって陽キャの集団みたいになっているこのクラスだとやっぱり無理があったな...。
恨み言が後方に流れ去って行くが、鈴木が「どう~してぇ~え~え~」と某ロックバンドの曲を歌い始めた。本当に汎用性高いな、あの曲。
まだブツブツ言いながら学校にたどり着き、チャリのお礼を言ってから校内に戻る。
買ったものはリュックに入れてたからそこまで冷えてはない。
「いやぁ他人の金で食う飯は最高に美味いっすねぇ」
「ねーマジ悔しいんだけどさ、ちょっと、一口でいいから食わせてよ、な。」
と鈴木が不毛な要求をしている。こういうこともあろうかと俺は先にチーズバーガーを食べ終わっている。すまんな鈴木。
どうやら最初からもらえると思っていなかったらしい鈴木も寄越せ寄越せ言うのを諦め、3人で海外のミーム動画を見ながら食べ終わった。
食べ終わったので再びレポートである。本当にめんどくせぇ。2年近くレポートを書いているが面倒なものは面倒だ。
「あの先生ほんと指摘まともにしてくれよ」
そこまでレポートに対する恨みを言わない田畑が珍しく愚痴を吐いている。鈴木は何かを悟ったような顔でテキストを眺めている。
まだ1時にはなっていないため時間はたっぷりある。今日中に通るように頑張ってはみよう。まぁ通らないだろうが。
後で思い出したが、結局この時はコンビニの電子レンジ調べてなかったな。
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