ep2:掃除
俺が在籍しているのは小金谷工業高校の情報制御技術科、その2年生だ。このクラスの火水木は数学があるのだが、その一点のみにおいてクラス全員から嫌われている。
みんな大好き金曜日は、情報処理技術という教科の教師の昔話と歴史(それなりに人気)がある。そして今日は金曜日だ。やったぜ。
教師の昔話(情報処理技術とも言う)は1時間目にあるが、この教科はうちのクラスの副担任が教科担任をやっている。つまり授業じゃなくても一緒にいる時間は長いが、相当オタッキーな人なので話も面白いので嫌いな奴は少ない。
その教師は情報制御技術科の次期科長である。次期、というのは今の科長がそろそろ定年であり、次の科長は年功序列で考えればこの教師になるだろうということなのだが、本当にどうなるかはまだ分からない。
歴史の授業が人気なのは、こちらも教科担任のせいだ。この教科担任は、この学校に赴任して1年目の初めての授業で「今日はみんなやりたくないでしょ?今日の授業はなし」とか言って1時間授業を潰したり、授業中に下ネタを頻繁に突っ込んできたりしている。
ちなみにだが、どちらの件も始末書を書かされ、今では鳴りを潜めてしまった。
さて、先ほどのうちのクラスの副担任だが、実は電気情報科でも授業を受け持っている。なぜ情報制御技術科の教師が電気情報科の授業を受け持っているかということについてはちょっと説明がいるだろう。
俺が在籍している小金谷工業高等学校は、機械科,情報制御技術科,電気情報科,環境科学科の4つの科が存在している。
そして、この科の名前はクラスの名前にも適用されており、機械科のクラスはMechatronicsの頭文字をとってM、情報制御技術科のクラスは情報の頭文字をとってJ、電気情報科のクラスはElectricalとInformationの頭文字をとってEI、そして環境科学科のクラスはEnvironmental Scienceの頭文字をとってESとなっている。
そして学年の数字の後に科の頭文字を付ければ学年分けも完了である。電気情報科の1年生なら1E、環境科学科の2年生なら2Sなどとなるわけだ。
なぜJ科の「情報」の頭文字はJは日本語で、EI科の「情報」は英語の頭文字になっているんだ?とはみんな一度は考えるが、県内の高専もそうらしいから深く考えない方がいいかもしれない。
学習内容だが、J科とEI科は学ぶ内容が結構近い。どちらの科もプログラミングをやるし、電子回路の勉強をして、基板に素子を実装する実習もある。
違いはいくつかあるが、当然J科は情報寄りで、EI科は電気工事寄りだ。J科はEI科よりパソコンを触っている時間が長いし、EI科はJ科より工具を扱っている時間が長い。
他にも、
・EI科は第二種電気工事士という国家資格を全員取得するが、J科は取得しない。
・J科はITパスポートという国家検定を取得する人が多いが、EI科は取得しない。
とか色々ある。
話が長くなったが、つまるところ学ぶ内容が被っている場所があるならEI科の授業をJ科の先生がやってもええやろということで行っているらしい。
「やっぱ数学がないと最高だな」
「せやな」
「ウィィィィッス」
6時間目が終わり、掃除場所へ向かう途中で隣の席の奴が話しかけてきた。なんか変なの混じったけど気のせいだろう。
この高校は全校合わせて360人程度しかいない小さな高校だ。人数が少ないから、掃除の時間になれば当たり前に全校が掃除をやることになっている。小説に出てくるような、一部の生徒だけが掃除して他はもう放課後っていう記述が信じられんね。羨ましい。
そして偏差値ではそこらの普通科より低い。工業やっているから普通科目に割く時間がないという理由だが、この高校の奴ら見てるとどうもそれだけじゃない気がする。治安悪いし昼休みにはバーナー持ち出してなんか焼いてるし。
こんな頭のおかしい奴らが集まったような場所だから、たとえ少し言動がおかしくても別に誰も気にしないのだ。まる。
掃除分担は名簿順で6つの班に分かれて1月ごとで回っており、それぞれ5人ずつで構成されている。俺は1班の最後だが、今日は1人早退したので4人になっている。
今月の掃除場所はJ科とEI科の研究室だ。この学校は15年ほど前にEI科棟を立て直しており、その際にJ科とEI科の研究室を同じ部屋にしてしまったのだ。まぁ授業の内容が被っている場所も多いから同じ部屋でいいのかもしれない。
研究室というのは別に大学の研究室のようなものではなく、ただの職員室のことである。
この掃除場所は特にいつも何かがあるというわけではないが、どうやら今日は当たりの日らしい。
というのも、ごくごくたまに、ES科のある教師がこの研究室に用があるらしくて来ることがある。その教師はメガネをかけていて、とても奇麗で若い女性なのだが、夏になるとそのたわわな丘陵地帯が揺れているのだ。もうこれだけで一片の悔いなしという状態で死ねる。
まぁ何が言いたいかというと、今日は、その「ごくごくたまに」の日であり、その先生のご尊顔を目にすることができたわけだ。1週間の最後に素晴らしいご褒美をもらえてもう正に有頂天である。
恍惚のキワミにいた我々4人だが、帰りのSHRの時間が近いためちょっと急いで教室に戻らないといけない。
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