ep4:同好会

 我々のSHRの終わりの挨拶は適当極まりない。後ろの席なら座っててもバレない。担任が怖い教師だったら恐らくちゃんとした挨拶していたと思うのだが...。生憎ああいう担任なものでその。


 さて、今日は金曜日。さっきも言ったが、同好会の活動日である。俺が所属しているのはドローン研究同好会という同好会だ。


 名前からも分かる通り、ドローンを飛ばしたりなんだりしている同好会である。この同好会には、3年生1人、2年生1人(俺だ)、1年生4人が所属している。


 今俺は、ArdunPilotという無線操作マシンの制御ソフトの操作法を学んでいる。


 まずその前に、ドローンというものの説明が必要だろう。


 ドローンとは、無人航空機のことであり、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)とも言われる。


 元々ドローンというのは「雄のミツバチ」という意味であり、ローターブレードの回転音がミツバチの羽音に似ているというところから名前が付けられたらしい。


 無人航空機=ドローンであるため、ローターが複数ある機体だけではなく、固定翼機もドローンの1種である。米軍の無人偵察機のような、長さが10m超えで翼幅は20m超えという機体もドローンである。


 さて、ローターが3つ以上あるドローンのことを「マルチコプター」というのだが、これはヘリコプター型とは違うことがある。


 ヘリコプター型であれば、見ればわかるがローターは1つだ。テイルローターもあるが、動かすのはその2系統だけでよい。


 例えば、前に進みたければローター軸を前傾にする必要があるが、それはメインローターの分だけ操作すればいい。


 だが、マルチコプターになると話は別だ。複数あるローターを全て制御しなければならない。


 マルチコプターにはローター軸を傾ける機構はないため、複数あるローターの出力をそれぞれで変えて飛行させている。


 ローターの数が8つまでの機体が一般的だが、その数のモータ出力を人間の手で制御することは不可能だろう。


 そのため、マルチコプターにはフライトコントローラー(FC)というコンピュータが内蔵されている。ヘリコプター型でも入っているものも多いが、マルチコプターの場合は必ずある。


 当然FCというハードウェアだけでは何の役にも立たない。それを動作させる制御ソフトが必要になる。その制御ソフトとFC等ハードウェアの総体がArdunPilotというシステムなわけだ。


ArdunPilotのホームページを見ると「マルチコプター、ヘリコプター、固定翼機、ローバーをサポートするオープンソースのオートパイロットシステム」となっている。


 このArdunPilotが入ったFCをPCと有線で接続し、PCのMIS PlannerというソフトからFCの設定をする。


 そして、そのFCを通じてプロポと呼ばれる送信機(ラジコンの送信機と似たようなもの)で操作命令を送り、MIS Plannerで設定された動作をさせる。


 この設定が出来なければ、ArdunPilot搭載の機体は操縦できない。


 しかし、ArdunPilotもMIS Plannerも開発は日本ではなく、アメリカである。日本語化はされているものの、主なメニューだけにとどまっている。ある程度ドローンやラジコン操作の知識があれば対応できるが、ドが付く素人には厳しいだろう。


 俺が何とかなっているのは非常に優秀な先輩がいるからだ。もはや優秀を通り越して異常と言った方がいい先輩だが...。


 この先輩だが、先ほども言ったように、異常である。どのように異常かというと、まず最初に高校生のくせに名刺入れがパンパンである。しかもそれが遠い県の県庁職員や大学、企業の社員などの名刺なのだ。異常に顔が広いのである。


 さらに、その交友関係にモノを言わせて部品やパーツを格安で仕入れている。しかも先日あったオリンピックのオープニングのアトラクションのシステム内部まで知っていた。どう考えても普通の高校生ではないのではなかろうか。


 そして彼は、国内のその手の会社などとタッグを組み、半分仕事と言っても研究と言ってもいいような活動をしている。もうほとんど入社が決定してるようなもんじゃないのか。


 もう呆れてものも言えない。また何度も繰り返して悪いが、彼は高校生である。




 我らが小金谷工業高校では、同好会には予算が出ないことになっている。しかし、ドローンには多額の費用がかかる。トイドローンと呼ばれる遊戯用の機体は6000円から3万円程度で購入できるが、テレビ局が使うようなドローンだと一番安くても15万円程度は必要だ。


 しかしこの同好会には、20万円ほどのドローンが同好会所有物として存在している。なぜそんな高価な機体があるかというと、別に危ない話ではなく、著名な企業よりの寄付があったのである。


 ちなみにこの機体は大量生産の完成品のため、ArdunPilot搭載ではない。ArdunPilotは業務用や自作ドローンなどのFCに使われていることが多い。


 その会社は、ドローン業界において、1社で世界シェアの8割以上を独占している。それほどの企業となると懐に相当な余裕があるのか、学生のドローンを使用した活動に自社製の機器を寄付するというCSR活動をしている。


 応募方法は2種類で、ネットや正規販売代理店に直接来店するかのどちらかだ。応募すれば、社内の基準に従って審査を行ったのち寄付が決定する。応募してから機器が届くまでおおよそ2か月かかるが、この活動開始当初は応募が非常に多かったらしい。3か月か4か月は簡単に超えていた。


 この同好会も応募したのだが、無予算というところが効いたのだろうか。あっさりと寄付決定の通知が学校に届いた。


 ちなみにCSR活動とは、「企業が倫理的観点から事業活動を通じて、自主的ボランタリーに社会に貢献する責任のことである。」という意味である。まぁ慈善事業に近いものだと思ってもらって構わない。


 話がそれてしまったが、この同好会はその寄付された機体を使用し、外部からの依頼で空撮をしている。が、そのパイロットは主に1年生である。


 先輩は同好会以外の活動で忙しいので仕方がないが、そうするとなぜ俺じゃないんだ、ということになる。


 簡単なことだが、そのドローンを飛ばし始めた時は俺が忙しく、活動に顔を出せなかっただけである。資格取得の補習の時期と被ってしまったのだ。


 今日は特に仕事があるわけでもなく、先輩もいないので後輩とトイドローンを飛ばして遊ぶだけだ。


 小さいと侮るなかれ、意外といい性能をしているのだよ。


 最近は、小型のものでもジャイロセンサや気圧センサの性能が上がっており、キャリブレーションと呼ばれる較正さえしっかりしておけばそれなりのホバリング性能もある。流石にGPS搭載の機体は少ないが、屋内なら何の問題もなく楽しめる。


 最近は飛ばしていなかったので腕がなまった。直感的な操作ができなくなってしまったが、やっぱり楽しいしおもしろい。


 まだ魅力はあるが、男の子の心をくすぐるかっこよさもある。小さな機体であろうと、ヘッド(機首)の向きを変えながら前進しつつ、上昇していくのがめちゃくちゃかっこいのだ。


 飛んでるものを斜め下から見るとかっこいいのは、飛行機であろうがドローンであろうが関係ないらしい。


 20分ほど飛ばして遊んでいたら、最後のバッテリーも切れたので片づけをして帰ることにする。バッテリーのサイズが小さいと当然飛行時間も短くなるのだが、今回は屋内だったのでかなり長い間飛ばせていた。それでも手持ちのバッテリー3本は使い切ってしまったが。


 このクソ学校は、駅より直接学校まで来た方が近い例を除き、学校までのバイク通学は禁止されている。本当にふざけてると思うんだが...。仕方がないので毎日文句を言いつつ、1時間に1本しかない電車を待つのである。

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