ミステリの作法を知らない探偵

P.S カーテンコール

　探偵だって日常を生きてる。

　だって、依頼人たちはごく普通の日常を生きるひとたち。

　普通に学校に通い

　普通に人を好きになり

　普通に働き

　普通に病気になり

　普通に年老いて

　普通に、死ぬ

　その間にいくつものイベントが挟まれる。

　事件は、探偵だけに起こるんじゃない。

　遍くみんなに起こりうる。

「お姉ちゃん！ これ見て！」

　普段は決して大騒ぎしない桜花が、ニコニコしながら開かれた封筒をアタシに渡す。

　手紙だった。

　・・・・・

　緋糸クン、桜花クン、元気かしら？

　メールやSNSだとアシがつくので古風に手紙をお送りします。

　わたしと田代が居なくなって2人には迷惑をかけています。

　ほんとに大変でしょう？

　でも、姫・・・っと、響はとても優秀だし誠実な女性だからパートナーとして互いに成功していけるよう願ってるわ。

　でね。本題はここから。

　まず緋糸クン。

　恋をしてね。

　アナタは自殺した子を救えなかったんじゃない。

　きっとその男の子は自分をこの世で唯一庇おうとしてくれたアナタに、恋に近いときめきを胸に秘めながら、最後の時間を過ごしただろうと思うわ。

　だから、アナタには恋をする資格がある。自分を棚に上げなくていいのよ。

　まあ、近くにいい男がいないだろうからちょっと大変でしょうけど。

　・・・・

「はは。カンジくんは想定してないんだ？」

　・・・・・

　それから、桜花クン。

　緋糸クン・・・お姉ちゃんを助けてあげてね。

　お姉ちゃんは正義を貫いて、そして家事にも向き合って生きてきてた。

　とてもカッコいい女性。

　お姉ちゃんをお手本にして、レディに育ってね。あ。もう十分レディだけどね。

　では、最後に。

　もしわたしと田代の姿が観たくなったらギタリストとドラマーのバンドの動画見てみてね。追っかけやってるから。

　P.S ハヤテは警察から自力で逃げられるから安心してね。

　・・・・・・・

　アタシと桜花はさっそく入籍したギタリストとドラマーのバンドの動画を観たよ。そしたら、東北でやったライブの動画で、観客席に、居た。

「ははっ。全っ然逃げ隠れしてない！」

　だって、グラムロック探偵のままだからさあ！

　Fin