カクヨム都市伝説『カタリくん』

斉賀 朗数

カクヨム都市伝説『カタリくん』

 カタリくんって知ってる?

 カクヨムっていう小説投稿サイトがあるんだけど、ある時そのサイトの中で公式キャラクターを決めようって企画があったの。

 キャラクターのイラストだけが決められていて、その子に誕生日だったり性格だったり設定を与えて、大賞に選ばれたものを採用して公式キャラクターにしようってものだったの。

 それまでにもカクヨムには、梟みたいな丸っこいトリが公式キャラクターとして存在していたんだけど、それだけより人型のキャラクターを採用することでライトノベルだったり漫画、アニメが好きな層にも語りかけやすいっていう判断だったんだと思うの。

 実際にそのキャラクターの設定が決まった日。カクヨムの中でいくつか不思議な出来事があったの。読み専っていうweb小説を読むのを専門とする人たちが、何人も何人も急に小説を書くようになったの。と っていっても、もともと読み専だった人が小説を書くようになるのは珍しい話じゃない。運営側もカクヨムには登録していたユーザーも、あまり気にはしていなかったみたい。でもその人数が増えてきた頃、何人かが異常に気付いたの。

 ホラージャンルの小説だけが、異常に増えているってことに。

 それも都市伝説を絡めたような話が、いくつもいくつも。

 古典的な都市伝説の赤マント。インターネット上で流行った、見ると精神に異常をきたすくねくね。夢の中に現れる都市伝説の猿夢。他にもテケテケや、生き人形、ゾルタクスゼイアンなど。それぞれにアレンジを加えた話がいくつもカクヨムで見られるようになったの。そして読み専の人たちが書いた物語の中には、ヒントのように共通点があったの。

 それは視線。

 どの物語にも『視線を感じる』『視線を感じた』『視線を感じたい』といったような視線に関する文が入っているの。それが分かったところで、誰もその視線が何を意味しているのか分からなかった。

 ただただホラー小説がカクヨムに増えていく中でね、一つのエッセイが多くの星を獲得し注目されるようになったの。

 そこに書かれた内容が、衝撃的なものだったんだ。簡単にまとめると、こういったもの。

『カクヨム上に散見する元読み専さんが書いたホラー小説群に共通する視線は、カタリィ・ノヴェルの詠目よめに由来するものではないか』

 かなり前置きが長くなっちゃったけど、カタリィ・ノヴェルっていうのが、カタリくんの本名なの。この子の設定に、詠目っていうのがあるの。人々の心の中に封印された物語を引き出して、それを必要な人の元に届けるって能力なんだけどね。

 その詠目で物語を引き出された読み専の人たちが、小説を書いているんじゃないかっていうのが、そのエッセイの趣旨だったの。たしかに面白い話だけど、そんなことってあるわけない。だってそのキャラクターって二次元のものだし、それに設定だってカクヨムに登録してる人が後付けで作ったものなんだもん。カクヨムに登録しているみんなもそれは分かっている。でも面白い考察なんじゃないかって、みんなは星をたくさん投げたの。

 そして、事件が起きたの。

 そのカタリくんについて書かれたエッセイの星が千を越えようとした頃、突然そのエッセイは消えちゃったの。それと同時にそのエッセイを書いた人のアカウントも消失しちゃったらしいわ。

 今まで誰も信じていなかったけど、その事件があってからみんなカタリくんに不信感を抱くようになったの。

 確かにカタリくんが公式キャラクターになったけど、それ以降極端に露出も少ないし、あのキャラクター設定を決めるコンテストはなんだったんだろうって。コンテスト直後が一番目立つはずなのに、その時に現れないなんてなんでだろうって。運営側がなにかを隠しているんじゃないかって。

 みんなが色々なエッセイを投稿して、運営とカタリくんのことを書いたわ。あの頃のカクヨムはとても殺伐としたものだったと思う。

 でも、それを嘲笑うように運営側から、カタリくんがカクヨム内の小説をオススメする記事が掲載されたの。その裏で、運営とカタリくんのことを書いたエッセイの数々と、それを書いたアカウントが削除されていった。そうすると、カクヨムの中は本当にホラー小説だらけになっていった。

 その頃に、一つの小説を見つけた人がいたらしいの。小説っていってもタイトルも本文も文字化けした一文だけ。

 タイトルは、『繧ォ繧ソ繝ェ縺上s』。

 でもね、なぜか妙に気になって、インターネット上の変換ツールを使って、その文字列を変換してみたの。

『繧ォ繧ソ繝ェ縺上s』は、日本語に変換すると『カタリくん』になったらしいの。急いで本文の『隧逶ョ縺ッ譛ャ迚ゥ縺縲りェュ縺ソ蟆ゅ�繧ォ繧ッ繝ィ繝縺ォ蜿悶j霎シ縺セ繧後∽コ句ョ溘r遏・縺」縺溘b縺ョ縺ッ繧「繧ォ繧ヲ繝ウ繝医→荳邱偵↓蟄伜惠繧呈カ医&繧後k縲』も変換してみた。そうすると『詠目は本物だ。読み専はカクヨムに取り込まれ、事実を知ったものはアカウントと一緒に存在を消される』って文になったらしいの。

 それでね、これは大発見だってなって、その人はカクヨム上にそのことを載せようとしたんだって。

 でもね、その時に視線を感じたらしいの。

 後ろをね、そっと振り返ったら、そこにはカタリくんが立っていてね。左目だけが、赤く光っていて、それで一言こういったらしいの。

「聞かせてよ、君の物語を」って。




 <><><><>




「待ってよ! こんなのボクじゃなーい!!」

「ふふふ、いいじゃないですか。カクヨムには、こうやって多種多様な物語が集まってくるのが魅力なんですから。それにカタリが書く物語よりは圧倒的に面白いわ」

「ふええ……そんなこと言わないでよ……相変わらず毒舌なんだからバーグさん」

「そうですか? 自分ではよく分からないわ。あっ、トリさん、ご機嫌よう」

「あっ、トリさんだー!!」

(この二人には、真実は伝えない方が良さそうだ。これからも、ホラー小説は増えていくさ。お前たちの知らないところでな)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カクヨム都市伝説『カタリくん』 斉賀 朗数 @mmatatabii

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ