「かくて。『物語』は綴じられた――そして、ここに『一冊の本』がある。」連作短編「魔法使いの羽ペンは奇跡を綴る」最終回。……とでも書けばよいのに、あえて私は左記(もしくは上記)のひとこと紹介を選びます。実のところこの作品の事を知ったのはほんの少し前。七日目か八日目の結果発表が終わった後、感想を書きに行った時に連作短編だからと教えて頂いて、【フクロウ】まで遡りました。びっくりした。本気で奇跡だった。
全部独立してる。各話それぞれ基本情報も足りてるから何処からでも読める。勿論どれも面白い。キャラも立ってる。まず【二番目】の時には基本的な設定が出そろってる。さらに【シチュエーション――】で登場人物の立ち位置を整理。ここから「物語」が走り出す。冒頭で提示された「設定」は【お題】で伏線として回収される。投稿までの時間制限も字数制限もお題制限もある「企画合わせ」の進行の中で、キャラクター周りがさらに補強され、登場人物の関係性が深まり、謎が解け、一緒に冒険をして、恋して、想いを確かめあって、ふたりで成長する。最初はヘタレだった主人公。背伸びをして引っ張っていくヒロイン。しかし、事件を乗り越えて成長する主人公と歩幅を合わせるように、ヒロインもまた少しずつ等身大の自分自身を取り戻してゆく。【ルール】【最後の三分間】【最高の目覚め】は全部お題に則った上で山場になった。【三周年】でヒロインは入学時の出会いを語り主人公もそれに応えた。そして【おめでとう】は主人公がそれまでの自分を超克した時に贈られた言葉だった。……「すごいことをやっている人がいる」と思いました。だいたいなんでスタートの時点で、KAC4の【ペン】をクリアしているんだ。というか、これが物語の「メインテーマ」じゃないか。……ああ、まるで広葉樹材の、たとえばナラとか桜とかの堅い木でできた狂いのない積み木を丹念に積んでいくかのような、精緻で、それでいて、なお温かみを失わない物語だ。文章力、構成力、丹念に編まれたからこそ応用の効く設定。いろんなものが揃わないと、お題を「完全攻略」して、十本で完結するなんて、こんなマネはできない……と、この最終話までは思っていました。
……今? 今は。
私は思うのです。本当に強い書き手というのは【お題】をみずからの物語にひきよせるのではないか、と。
「魔法使いの羽ペンは奇跡を綴る」は、主人公が自分だけの「魔法の羽ペン」で「自身の物語を綴る」物語。最終話に、詠み人【カタリィ・ノヴェル】と支援AI【リンドバーグ】を呼び寄せたのは、作者とこの『物語』ではなかったか、と――因果律? そんなもん。ラノベ界隈じゃ簡単に変わるものの代名詞じゃないですか? 変ですか? 変でしょ? 不思議に思うのなら【フクロウ】まで遡ってみてください。ここまで戻ってきたら、私の話を信じる気になってるから。
――ふう。ああ、言いたいこと全部言えて、すっきりした(笑
魔法使いの青年、エヴェンが出会ったのは、異世界の少年カタリ。
カタリは人の内側にある物語を読み取ると言う能力で、かつてエヴィンが体験した物語を読み取ります。
エヴィンの物語。それはまだ彼が少年だった頃、魔法使い養成所で、落ちこぼれと呼ばれていた頃のお話。
若かったあの頃、仲間と共に旅をして、恋をして、成長していった、掛け替えの無い日々が、そこにはありました。
カクヨム三周年記念選手権用に書かれた「魔法使いの羽ペンは奇跡を綴る」と言う連作短編の完結編。ですが、今作から読んでも問題ありません。
今作を読んで、エヴィンがどのような物語を紡いできたのか気になったら、今度はシリーズ一作目から読んでいってみてください。
至極の物語が、あなたに読まれるのを待っています。