「おめでとう」なんていらないから、

ベームズ

神父と引きこもり

「神父様神父様‼︎」



「何かな?迷える子羊よ」



「あなたの最近の趣味は?って聞かれたらどうしよう?」


「……急にどうした?」


「だって、私って、最近まで引きこもりだったじゃん?でも、神父様のおかげでようやく外に出られるようになって?だから、そろそろ就活でもしようかなって思って、それで考えてたら、こういのって、面接で聞かれそうじゃん?って思って」



「なるほど、なら協力は惜しまないぞ?こんなのどうだ?君はたしか、ゲーム好きだったろ?自分の部屋に引きこもって一日中ゲーム、それが趣味だったんだし、下手に嘘言う必要ないだろ?」



「高校卒業してから4年間、就職したはいいけど、周囲の大人たちについていけずに挫折、丸々引きこもってゲーム三昧。

腐りかけていた所、心優しき神父様に出会えて心の傷が癒えて、最近やっと外へ出られれようになって、それでたまたまこの会社の募集見かけて来ましたって言えばいいだろ?」



「100%事実だけど!?……それはさすがに一人の人間として胸を張っては言えない気が、ってか、それもう完全に私は引きこもりでしたって告白するようなものじゃん‼︎」


「大丈夫だって、一つのことに打ち込めるすごい人だって思われるから。それに、自分で立ち直ることができる強い人間だとアピールできる‼︎」



「ほんとに⁉︎私なんて、見た目も喋り方も完全にオタクだし、ただの引きこもりだと思われそうだよ‼︎……100%あってるけど‼︎……自分から言うのはなんかイヤ!」


「一人でノリツッコミご苦労様。

でも、そんなに不安だったら、ストレートに言わずにこう言えばいいんだよ。(コソコソ……)」



「……うんうん……なるほど」


当日。


「……えーっと、あなたの趣味は、何ですか?」


「はい‼︎(キタコレ!)

発電機を直して扉を通電させて脱出することです‼︎」


「……………(監禁?訳ありか?)なるほど。大変な状況におられたのですね」


「あっ、でも、私が脱出することをよく思わない人がいて、見つかると追いかけ回されて、切りつけられて、倒されて担がれてフックに吊るされます」


「…………(警察沙汰か?)な……なるほど。よく耐えましたね」


「でも、それが楽しくてやめられません」


「……………(そういうプレイ?なのか?)なるほど」


「ま……また、逆もありです。(赤々……)」


「(うん、もうわからん。)なるほど。」



………………。







「採用された‼︎なんでかわからんけど、すごい同情された!」


「おめでとう‼︎同情?(結局本当のことを言ったのか?)」


「あなたのアドバイスのおかげよ‼︎ありがとう‼︎」


(……笑うと可愛いな)


「でも、おまえはまだ社会の入り口に立ったにすぎん。ここで気を緩めると以前の繰り返しになりかねん。本当の戦いはその入り口をくぐってからだぞ‼︎」


「分かってる分かってる‼︎でも、とりあえずはひと段落じゃん、祝ってよ‼︎」


「よし、いいだろう。ならこれか……」


ドスッ‼︎



「な……」


「ごめんね、でも、たぶんここが私の幸せの絶頂だと思うの‼︎だから、この感じをずっとあなたと二人で共有し続けたくて、そうなるともう一緒に死ぬしか」


………ドサッ、


「…………ごめんね、私もすぐにそっちに行くから。まってて」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「おめでとう」なんていらないから、 ベームズ @kanntory

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ