15 秋の始まり ねえ? 私と一緒に旅をしない?
秋の始まり
ねえ? 私と一緒に旅をしない?
秋になると、兎がちょっとしたブームになった。
「兎って幸運の動物なんだってね」絵美ちゃんが’嬉しそうな顔でそう言った。
誰がみんなに言い出したことなのかわからないけど、梅子先生の言っていた兎は幸運の動物である、と言う言葉が教室のみんなに伝わったことで、兎を気にする生徒たちが急に増えた。
美月と真琴くんが二人だけで世話をしていた兎小屋にお昼休みの時間や放課後の時間に兎を見に来る生徒たちも増えたし、教室では『幸運の兎の占い』が流行ったりした。(絵美ちゃんによると、朝の番組で、そういうコーナーを最近やっている、と言うことだった。この話を聞いて美月は最近の兎ブームのきっかけの正体がようやく理解できた)
「ねえ、美月ちゃん。兎占いしようよ!」
絵美ちゃんがそういうので、美月は兎占いを絵美ちゃんと二人でしてみた。
兎占いとは、その人の誕生日と血液型からあなたはこんな兎です、と言った感じで、性格や運勢を占うと言ったものだった。
占いの結果、絵美ちゃんは『怠け者の白兎』であり、美月は『頑張り屋の子兎』だった。
その占いの結果に絵美ちゃんは腹を立てた。
「兎可愛いね。私も兎当番やればよかった」絵美ちゃんは言った。
春のときとは違って、今度の絵美ちゃんは本当に兎当番をやりたくてたまらない、と言った感じだった。
「おい、真琴。兎って勝手に餌やってもいいのかよ?」
「いいよ。あげてみな」
声のほうを見ると真琴くんが勇気くんやほかの数人の男子生徒とそんな話をしながら、兎の世話をやっていた。
「おお、食べてる、食べてる。こうしてみるとさ、兎って結構可愛いんだな」
にっこりと笑って勇気くんが真琴くんにそう言った。
勇気くんのあげている餌を食べているのは、白黒兎のくろだった。
くろは夏休みが終わって、二学期になってから、だんだんと元気を取り戻しているように見えた。今も勇気くんのあげている餌をちゃんと食べているように、春や夏頃とは違って、餌を食べ、水を飲み、しろともちょっとずつ、一緒に遊んだりするようになったみたいだった。
そんなくろの様子を見て、美月は心からよかったと思った。
それは真琴くんも同じようで、「くろ。元気になって本当によかったよ」と放課後の帰り道で、にっこりと笑って美月にそう言った。
世界はオレンジ色の光に包まれていた。
真琴くんはその手に土手に生えていた一本の長い草(名前はわからないけど、猫じゃらしみたいなやつだ)を持っていた。
赤色の空の中にはトンボが数匹飛んでいた。
そんな風景を見て、美月は、もう季節は秋になったんだ。……一年って、本当に過ぎていくのが早いな、と少し寒くなってきた九月の風の中で、そう思った。
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