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「俺さ、両親が離婚しているんだ」
兎の世話をしているときに、そんなことを真琴くんが突然言った。
「離婚」
美月が言う。
「うん。俺、父さんと一緒に住んでいるんだけど、母さんと一緒に住んでいないんだよ」そう言ってから、なぜか真琴くんは美月の顔を見て、にっこりと笑った。
「そのことでからかわれたりしてさ、それで、『あいつ』のこと思わず殴っちゃったんだよ」
真琴くんは言った。
真琴くんは元気のないくろの頭をゆっくりと撫でた。
美月は無言のまま、真琴くんの話を聞いていた。
真琴くんが言った『あいつ』とは去年の終わりごろに、五年生のころの教室の中で、真琴くんと取っ組み合いの喧嘩になったある一人の男の子のことだった。
その男の子はもう転校してしまったのだけど、その男の子と真琴くんは一番の親友同士と言ってもいいくらいに仲の良い関係だったので(ちょうど今の真琴くんと勇気くんのような関係だった)同じ教室にいたみんなは(もちろん美月も)突然の喧嘩の原因がわからなくて、すごく混乱したものだった。
「俺、あいつに謝れてないんだ。そのことを今、すっごく後悔している」真琴くんは言った。
「どうしてそんな大事なことを私に話してくれるの?」
しろに餌をやりながら、美月が言った。
「さあ、なんでだろうな。俺もよくわからないよ」
真琴くんは言った。
「こうして一緒に兎の世話をしてると、なんとなく、西谷に俺とあいつのこと、知っておいてもらいたいなって、なぜだかわからないけど、そんなことをふと思ったんだ」
真琴くんがそんな話をしているときに、梅子先生が二人の様子を見に、休憩室から二人のいる小さな兎小屋の前に戻ってきた。
「どう? 兎の世話は順調?」
梅子先生は笑顔でそう言った。そんな梅子先生に二人は「はい」と答えた。
そして、この会話は終わりになった。
こんな風にして、真琴くんはいろんな自分の話を兎の世話をしながら美月に話してくれるようになった。(美月ももちろん、自分の話を真琴くんに話した)
美月は真琴くんとの間にあった二人の距離がぐっと近くなったような感じがした。それがすごく美月は嬉しかった。
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