第38話 ブルンガ島・その後


 混乱を極めたブルンガ島は、わずか一週間で平静を取り戻した。これは日本政府と外務省の羽島・中東アフリカ局次長らの努力。さらには警視庁の全面支援の元でハミ、クマ両民族によるブルンガ警察の再建が敏速に行われた事による。

 日本政府としては、ブルンガ島の騒動が民族紛争として国連の安全保障会議に取り上げられる事を最も避けたかったようだ。安保理ではこうした問題になるとアメリカや英仏と中国・ロシアの利権対立で、拒否権の応酬合戦になる事が火を見るより明らかだからだ。

 もしもブルンガ島の混乱が長期化すれば現地にある吉浦電気工場のみならず、波力発電所からの電力供給や、はては治安の乱れが続く事で、東京にまで影響が出る。それを恐れたのだ。

 その為、日本政府主導でかなり強引な沈静化が図られ、島では優位にたったクマ族側も共和国の秘密警察を完全に排除する事を条件に停戦に合意したようだ。

 アメリカ等、西側の当初の思惑は、この島に旧ブルンガ王国の臨時政府を作り、ここから本国への影響力を行使し、利権の奪還を図りたかったようだが、要となるはずのアミラが、頑なに王位継承を辞退し、このまま一市民として小学校の教師を務める事を望んだ為に、臨時政府計画は頓挫したらしい。

 本国のブルンガ共和国政府は当初、この騒動を反乱として軍を送る計画を立てていたが、日本側の説得と予算の関係で断念。日本人殺害に伴う一連の騒動として、ルカ・ベンの死を治安維持活動に尽力した結果の殉職としてL’Ordre national du Mérite(国家功労勲章)を死亡叙勲し、年金を本国にいる第二夫人に支給することを決定した。そのルカ・ベンは今、彼が務めていた『トウキョウ・初等・中等科学校』の下、カタコンベの中に眠っている。


 山部は東証二部上場のアパレル会社・総務部に再就職が決まった。友久教授の事件以降、時折観光客としてブルンガ島を訪れるようになった山部は、高本波力発電所長の許可をもらい、秘密の釣り場に入る事を許可された山部は、ついに70cm級のスズキを続けざまに3匹釣り上げた。その際、宿泊した京沖ホテルでは日本からの番組が視聴できるようになった事を確認した。


 なお、桧坂は警察に残り、今回の功績もあって今度警部補に昇進するという。

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東京・ブルンガ島 カツオシD @katuosiD

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