三年目の真実

斉賀 朗数

三年目の真実

 ヒロシ&キーボーが歌っていた【三年目の浮気】っていう歌のせいで、 結婚して三年目には浮気が多いっていうのが都市伝説として定着している。

 そのせいなのか、ここのところ沙也加は俺のことを疑っているような気がする。確かに俺が、こそこそと動いているのが悪かったのかもしれない。そのせいか監視カメラでもあるのかって思うくらい、家の中でもやたらと視線を感じる気がする。

 まあ、それも今日で終わりだ。

 今日は沙也加と結婚して三周年の記念日。

 この日の為に、サプライズの準備は、ばっちりしてきた。結婚した時には買えなかったけど、三年かけてこっそり溜め込んだお金で買った結婚指輪。俺には沙也加しかいないってことを、分かってくれたら嬉しい。




「スタート」

 俺は玄関から室内へと、一歩踏み出す。音楽が流れる。曲は木村カエラのButterfly。ベタなくらいがちょうどいいかなと思って、この曲にした。右の扉が勢いよく開く。沙也加の友達の蘭さんが踊りながら小さな箱を差し出す。俺はそれを受け取って、開いてみせる。でも中には何も入っていない。そうすると、更に奥の扉が開く。俺の友達で沙也加とも何度か飲みに行ったことのある達也が、蘭さんと同じようにダンスをしながら出てくる。達也もまた小さな箱を持っている。それをもらって開けるが、中にはやっぱりなにも入っていない。俺はそれを放り投げて、蘭さんと達也と一緒に踊りながらリビングへと向かう。リビングにはたくさんの料理が並んだテーブルと沙也加の大学時代から仲のいい友達が数人、沙也加とも面識がある俺の友達が数人。みんな小さな箱を持っていて、それを同時に開ける。しかしどの箱にも指輪は入っていない。

 音楽が止まる。

 すると台所に隠れていた、俺と沙也加を巡り合わせてくれたたつきが現れて、今までと違う大きな箱を取り出す。それを開けると中には花束。

 そこで俺がポケットに入れていた小さな箱を沙也加の前に差し出す。

 そこには結婚指輪。

「よっし、おっけー」

 そういうと、みんがそれぞれ会話を始めた。

「まあ悪くないんじゃない?」

 樹が俺の方に歩いてくる。

「おう。そうだな。サプライズとかしたことなかったから助かったよ、ありがとうな」

 俺の肩をぽんと叩く。

 このサプライズをやりたいといった時、やり方がよくわからない俺にいくつかの案を提案してくれたのは樹だった。そのお陰で、俺自身結構いいんじゃないかなって思えるサプライズが出来そうだ。

「それじゃあ、今から沙也加を迎えにいくんで、今の感じでお願いします」

 了解。はーい。分かりました。と様々な返事を背に受けて、俺は部屋を出て扉を開けた。




 <><><><>




 いきなり、「迎えに行くよ」なんて絶対に怪しい。

 今まで一回も迎えに来てくれたことなんてなかったのに。

 沙也加って、そんな大きな声で呼ばないで欲しい。視線を感じる。駅前だから、いろんな人に見られるっていうのがどうして分かんないかな。

 今日は俺が料理作ったよって、余計に怪しい。一回も料理なんて作ってくれたことがないのに。

 絶対に家に女を連れ込んでると思うんだよね。何回かリビングと台所のあたりで長い髪の毛が落ちてたし。私より全然長いし、色だって黒いのが。

 この前テレビでヒロシ&キーボーの【三年目の浮気】が流れた時にチャンネルを変えたのも怪しい。

 今日はなんだか妙に口数が多い。

 きっと今日、家に女を連れ込んでたんだ。だから罪悪感があって、ご飯なんて作って私を迎えに来たんだ。

 絶対に証拠を見つけてやる。

 この前隠しカメラをセットしたから、今日の夜にひろしが寝たら映像のチェックをしよう。

 それでばっちり映ってたら、もう離婚だ。




 かっこいいとでも思ってるのかどうかは分からないけど、玄関を開けてエスコートするみたいに私を部屋に招き入れる。っていうか、どうぞってここ私の家でもあるからね?

「スタート」

 はぁ? 突然なにいってんの?

 いきなり音楽が流れて扉が開いて蘭が出てきた。

 なにこれ?

 なんにも入ってない箱。

 達也くんも出てきたけど、ちょっと待って。そこって寝室じゃん。普通さ、寝室に他人を入れたりする?

 まじでありえないんだけど。

 あー、なるほど。今日は結婚して三周年の記念日だからサプライズってこと。

 ありえない。

 結婚して三年も経つのに。

 私、サプライズとか嫌いなんだけど。

 あー、最悪。もう本当に。あー、なんか友達もみんな参加してるし。なんだよ、これ。でも樹くんは参加してなくって、まだ良かった。樹くんは私のことよく分かってくれてるもんね。うん。こんなことだったら、博じゃなくて樹くんと結婚したら良かった。

 離婚かな。

 とりあえず、いつもみたいに、また樹くんに抱いてもらおう。

 指輪はまあ、質屋にでも売ろう。

 みんな何笑ってるんだよ。

 とりあえず喉乾いたし、お茶でも飲も。

 なにこれ? 冷蔵庫と食器棚の間、なんか赤くない?



 <><><><>



 沙也加と樹が消えた、あの日。みんなは、こそこそと駆け落ちでもしたんじゃないかといっていた。でも俺は、どうしても、それが信じられなくて、沙也加をいまだに求めている。警察も分からないといっていた。ただ言葉の端々から、ただの駆け落ちだろうって雰囲気が伝わってきた。

 沙也加。

 もう一度、会いたい。

 今までなら触ることもなかった、沙也加の服が入っている押入れや、ドレッサーを漁った。少しでも沙也加を感じられるなにかを求めて。

 手に何か固いものが当たった。

 カメラ。

 本当に置いてあったのか。

 沙也加をここまで疑心暗鬼に陥ららせていたのか僕は。と悪く思う一方で、このカメラは部屋の至るところに設置してあるのではないかと考えた。俺の浮気を疑っていたのなら、証拠を掴むために、他の場所にも。

 あった。あった。あった。あった。

 俺が一番確認したかった、最後に沙也加ぎ向かった先の台所にもカメラは隠されていた。刺さっているSDカードを抜き取って、急いでパソコンに差し込んだ。録画のデータは膨大な量だ。でも、動画内に時間が載っているおかげですぐにいつの動画なのかが分かる。

 あの日。

 結婚三周年のあの日の動画を。




 樹は台所でしゃがんで、きょろきょろと周りを見ている。周りには誰もいないのに、まるで誰かの視線を感じて、その視線の元を探しているように。

 そうして冷蔵庫と食器棚の隙間を見る。

 樹の表情は見えない。しかし後退りをしているのは確かだ。

 そこになにがある。

 いったいなにがあるっていうんだ。

 沙也加もここに?

 俺は確認しないといけない。

 そこになにがあるか。

 樹がどうして、そんな隙間に消えていったのかを。

 冷蔵庫。

 食器棚。

 確かに隙間がある。

 覗き込む。

「あなたがここに引っ越してきて今日で三年。あなたのことを裏切る女も友達も殺してあげたから、私と一緒に三周年のお祝いをしましょう」

 そこには知らない、薄っぺらい女がいた。

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