カクヨムさんしゅうねん

枕木きのこ

カクヨムさんしゅうねん

 カクヨムが三周年を迎えた。

 

 同じカクヨムユーザーである伴坂ともさかと週一のを行っている折、その話が出た。彼はコーヒーをすすり、カウンター席から外を覗くと、


「三年も続いているとなると、もしかしたらそこを歩いている人もユーザーかもしれないよなあ」


「まあ、中学生も高校生も卒業するからね」


 そう返すと、


「はあ?」


 意味が伝わらなかったようで、怪訝な顔をされる。

 私は両手を広げて会話を終わらせた。


 ネタ会議は、こうしてほかの話題が出てしまうほど、行き詰っていた。

 

 私たちは、あるオフ会の際に創作物の好みが合致した。ミステリーといえば横溝正史、純文学といえば井伏鱒二。アニメはSFしか観ず、漫画はサスペンスを買う。

 そこで伴坂が、酒の入った勢いだったのだろう、

「俺たちなら、になっても、バレないかもしれない」

 豪快な笑い声を上げながら、手に持ったグラスからびしゃびしゃとビールをまき散らし言った。


 率直に言って、面白い、と思った。

 

 今まで使用していたそれぞれのアカウントを削除し、として、リレー形式で一話ずつ交代で話を紡いでいく。

 私たちの目的は、もちろん面白い作品を書くことではあるが、として認知されることである。

 ただ、それは自発的には行わない。それは面白くないからだ。

 あくまでも、気づいてもらう、気づいてもらえるよう布石を打つ、ということを念頭に、作品を投稿していくのだ。

 たとえば題材が双子の入れ替わりミステリーだったり、あるいは二重人格者の苦悩であったり、といった具合に、常に「」という数字を意識させる。


 ——だから、といってもいい。


「三周年」というテーマは、我々には数が多かった。


「三周年、三周年……」今度は呪詛のようにつぶやきを続け、「ありがちなのは結婚三周年とかといったような、純粋な意味での三周年、だよな」

「まあ、そうだろうね」

「それは面白くないよな。だってたぶん、三周年がテーマになっていたらおおよそ、それこそ九割九分がきっとそのままの意味で使うぜ」

「まあ、三周年がテーマなのだから、そりゃ、そうだろう。むしろ奇をてらってもこけるのが目に見えてる。誰も短編でそんな冒険はしないさ。初日のフクロウとかならともかくね」


「まあ、そうだよなあ」


 しかしこの伴坂という男は、面白いことがしたいのだ。それはもちろん、私も然り。

 そうでなければ一人で創作を続けていた。


 結局、苦肉の策を用いた。


 いわゆる、誤変換とでも言おうか。

 伴坂は三周年を「参集念さんしゅう・ねん」と字面を変えると、


「主人公は望んでもいないのに他人の念――精神が集まってきてしまう少年。要するに、精神感応テレパス。彼はこれのおかげで苦労なく人生を過ごしてきた。ただ、彼は読み取っていたわけではなく、あくまで、集まってきてしまっていただけ。だんだんと蓄積していく精神の数に圧迫されて、最後にはボンッ! 自分の意識もどっかに飛んでっちゃう」


 と、一気に話した。


 正直、私はそのSFだかファンタジーだかあいまいな話が面白いとは思えなかった。というよりは、我々が忌避する「ありがち」に相当するのでは、と考えていた。

 ただまあ、我々という存在に対する布石にならないわけでもない。


 もしも後々我々が二人組だった、とわかった時に、その話を書いたのは私じゃないほうがいい。


「じゃあそれで行こう。今回は短編だし、伴坂に任せるよ」


「任せてくれよ」へへへ、と小さく笑うと、「俺、これなら取っちゃうかもしれないなあ」




 八日目の結果発表が済んで、思った通り――と言っては伴坂に申し訳ないが、我々の作品は全く賞に引っかからなかった。それどころか、閲覧数わずか五——星もなければ応援もない。

 

 近況ノートにやたらとコメントが付くな、と思っていたら、どうやら伴坂が受賞作のコメント欄を荒らしているらしかった。それどころか、勝手に「コンテスト総評」などというものを投稿し、あれやこれやと罵詈雑言を吐いている始末である。大したネタでもないくせに、よっぽど自信があったらしい。


 下手をすればアカウント削除もありうるギリギリの表現がちりばめられていて、私はなんだか、可笑しくなってきた。あまりに哀れだ。滑稽だ。


 LINEラインで「解散しよう。というか、もう新しい自分用のアカウント作った。最後に楽しませてくれてありがとう」と送って、すぐさまブロック操作を行う。

 



 ――そのようなわけで私は、すっかり結果まで出てしまっているが「三周年」をテーマにを書き綴っている。


 そんな哀れな男がいたのだよ、と。


 たとえ読まれずとも、星が付かずとも、応援されなくとも――

 どうか三周年を飾ったカクヨム内から――


 さん! 執念しゅうねん! 

 

 ——という、くだらない話である。

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