そして、ぼくは強くなる
弐刀堕楽
そして、ぼくは強くなる
「いい
「てめえが盗んだのは分かってるんだぞ!」
ボグンッ!
――
視界が一瞬ぐらりとゆらぎ、世界がひっくり返りそうになる。でも、すぐに元の
目の前にいるのは、三人の男たちだ。彼らがぼくを
しかしぼくには何もできない。椅子に
「なかなか
「おい、少し休ませようぜ」一番
「……けっ!」
一番チビの男がイラ立たしそうに、ぼくの胸を
ぼくは思いっきり後ろにひっくり返った。
頭をゴチンと床に打つ。
そして――
……
…………
………………
『この役立たずが!』
また殴られる。殴られている。
――昔のぼくが、殴られている。
『金を寄こせだと? それが
相手は大人の男だ。身体は
『オラッ!』強いビンタ。ぼくの鼻から血が
ぼくは父親を
生き残るためにはやるしかない。
店に戻って盗むしかない。
………………
…………
……
バシャン!
――水をかけられて、ぼくは意識を取り戻した。
「休んでる
チビ男は、空のバケツを床に置いた。それから腰の後ろに手を回すと一本のナイフを取り出した。
「次はこいつだ」
彼はそれをぼくの左肩に押し当てて叫んだ。
「さあ、吐け! 俺たちの金をどこに隠した!」
ナイフがズブリと入ってくる。
左肩に燃えるような痛みが走った。
「まだ
男が手元をぐるりと
ぼくは短いうめき声を上げた。吐き気がする。だが、ナイフはさらにぼくの中に侵入した。
ズブリ、ズブリ――目の前がパチパチと
ああ、また意識が遠くなる。
また意識が――
……
…………
………………
『しっかりと押さえてろよ』
――また昔のぼくだ。
今度は布で口を
『先輩マズいっすよ。見つかったらどうするんすか?』
『心配すんな。
腹ばいの姿勢でねじ伏せられる。必死になって手足をバタつかせると後頭部を殴られた。顔が地面にぶつかって口の中が血の味になる。
『おい、力抜け。殺しやしねえって。すぐに終わる』
体全体が押しつぶされる感覚。尻に
でも、ぼくには何もできない。相手は力の強い大人だったし、権力のある警察官だった。どうやったって勝ち目はなかった。
生き残るためには
黙って耐えて泣くしかない。
………………
…………
……
「おい、目を覚ましたぞ」
男たちがぼくを見下ろしていた。
「何か言う気になったか?」
「ぼくは……やってない……」
そう弱々しくつぶやいた。それ以外に何も言えなかった。
彼らは、ぼくがお金を盗んだと思っている。でも、ぼくはただの浮浪児だ。路上で暮らす、か弱い存在だ。
それなのに、どうしてこんなに怖い人たちからお金を盗まなきゃならないんだ? そんなのおかしいじゃないか。
「
「こうなったらアレを使おう」
一番やせた男が初めて
彼は床の上の四角い箱を指さしている。
「アレは……マジで死んじまうぞ」
「仕方がないさ。死んだら金は
やせた男が、四角い箱の
「いいか、よく聞け」チビ男がぼくに
そして、彼はぼくの耳を引っ張った。
「それで、俺たちの金はどこだ?」
「ぼ、ぼくは……」
言葉に
ぼくが無実だって、どう言えば伝わるんだろう。
頭が真っ白になって、ぼくはそれ以上
「そうか、まだ黙ってる気か……。やれ!」
やせた男がぼくに棒を押し当てた。
全身を
身体が
また気が遠くなる――
……
…………
………………
『とうとう捕まえたぞ!
身体を押さえられている。周りに
――ああ、これは……。一番嫌な思い出だ。
『盗みを働いた者に与えられる罰を知っているな?』
店の主人の手には
嫌だ、やめてくれ。ぼくはただお腹が空いていただけなんだ。
『
そして
激しい痛みと出血。
大きな
『これに
ぼくの右腕がごろりと地面に転がっている。
だけど、ぼくには何もできない。だって、皆はぼくのことを憎んでいたし、ぼくよりもお金持ちだったから。どうやったって勝ち目はなかった。
生き残るためには失うしかない。
黙って失って
だけど――
だけど、本当にそうなのだろうか?
ぼくには何もできないのだろうか?
『いいえ、君にもできるわ。君なら何だってできる』
そういえば、あの人はそう言ってくれたっけ。
……うん。
……そうだよな。
ぼくにだって――
いや、オレにだってできることがあるはずだ。
オレにしかできないことが……。
………………
…………
……
「おい、何するんだ! 離せ、クソガキ!」
やせた男が叫んでいる。
彼の左腕がひしゃげていた。
だが、オレは離さない。
オレは失ったはずの右腕で、彼を捕らえて離さない。
「思い……出したぞ……」口から思わず言葉が
「このガキ、どうやって縄を!? ぐ、ぐわあああー!!」
ボキンッ!
――男の腕が折れ曲がる。
オレは、泣きわめくそいつの顔を右手で
メキメキという音とともに
「な、何なんだよ! こんな話は聞いてねえぞ!」チビ男は真っ青だ。今にも
一方、
オレはそれを
一瞬うろたえる男――その
「や、やめろ! 来るな!」
最後に残ったチビは、必死に部屋のドアを開けようとしていた。だが、なぜか開かない。カギがかかっているようだ。
オレは床に落ちていたナイフを拾い上げて、彼にこう言った。
「なんかごめんな。もうちょい
「え、ちょっと待って!? やだちょっと、やめて――む、むぐぅッ!!」
オレは、チビ男の口にナイフを
そして言うまでもなく――彼は死んだ。
「さてと……」
部屋のドアをぶん殴る。ドアが吹っ飛び、通路に出た。
真っ白い部屋の中では、一人の女性がソファに座って本を読んでいた。彼女はオレに気がつくと、
「あら、
「ああ、ゆっくりと休ませてもらったよ」オレは床にペッとツバを吐く。「だけど、あんたもひどい人だぜ。オレに記憶消去剤を注射して、あんなカスどもに
「でも、君は精神力で薬に打ち勝った。これもいい経験よ」彼女はさらりと言う。「それに
「まあ、少しだけな」
「そう。それはよかった」
「だが、まだ
オレは右手を
彼女がオレにくれた特注品の
「ハァ……。
「もちろんだ」
「それじゃあ、私に一つでも傷を負わせることができたら、本日の訓練は終了としましょうか。でも、できるかしら。別に無理しなくてもいいのよ?」
「へっ、言ってろババア。後悔させてやんよ」
オレは地面を
正直、彼女に
勝つのは、まだまだ無理だろう。
だが、いずれオレは
そして、この
強い男になってやる。
そして、ぼくは強くなる 弐刀堕楽 @twocamels
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