眠る君と見た夢を

とべないうーいー

第1話 夢の続きを、創ろうか

向日葵みたいだね


君の笑顔を見たとき、思わずそう呟いた


眩しい笑顔をする君は夏の向日葵そっくりだ

と思ったからだ。


「勇輝さんって、面白い表現しますね

向日葵で表現されたの、初めてです

私、向日葵大好きなんですよ!

だから嬉しいです」


気取った作家みたいな表現をしたなと顔を赤らめる僕に、笑顔で答えてくれた彼女が役者を目指していると分かったのはその後だった。









——————————————————


「ごめんごめん、残業してたら遅れちゃって

さ」


僕は君に手を合わして謝った。


「今日は上司がなかなか帰してくれなくて」


君は僕に何も言わない。


「あ、そういえば今日はお花買ってきたんだ

佑唯ゆいの大好きな向日葵

綺麗だよね」



僕は君の横に向日葵を飾った。


君は向日葵を見ない


僕は君の左手をそっと握った


でも君は僕の手を握り返しはしない


‥‥佑唯は今、どんな夢を見ているの?


触れた体温で伝えてみたけれど、答えはない



僕の右手に伝わってくる君の体温は、無機質で、跳ね返ってこない温もりは、じわりじわりと沈み込んでいくだけだ。




もしかしたらもう二度と目を覚まさないかもしれません。


そう医者に言われた時、映画のワンシーンだと思った。

全てがフィクションで、カットがかかれば佑唯は普通に何事もなかったように目を覚ますんじゃないか、

今の演技どうでした?

監督にそう尋ねる、真剣な表情の佑唯がそこにいるんじゃないか、

でも、かからないカットが無情にもこの時間が創りものでないことを表していた。



交通事故に遭って1ヶ月

佑唯は今日もベットで眠り続けている。


僕の右手の温もりが、佑唯の左手に溶け込んでいく。

ずっと溶け込んでいく感覚に、だんだんと僕は目を閉じたのだった——




———————————————————


目が覚めると、僕は椅子に座っていた。

‥‥ここはどこだ?

周りを見渡すと、座席がずらっと並んでいて目の前にはカーテンで閉まっている舞台がある。

少し小さめのホール?といったような感じだ。


‥‥夢の中?


やけにリアルな夢だと感心していると、突然周りが暗くなった


目の前のカーテンが開く。

舞台に立つ1人の女性。


‥‥佑唯だ


「今から公演に先立ちまして、ご来場のお客

様にお願い申し上げます。

録音、撮影等は禁止です。

心の中に残しておいてください。

尚、本公演は一度きりでございます。

同じものは二度と創れません。

なので私のこと、ずっと見ててください

最後に、まだまだ役者として未熟者ですが

私なりに精一杯頑張りますので、どうか温

かい目で見守って下さい」


真っ白な衣装に身を包んだ佑唯はそういうと深くお辞儀をした。


‥‥佑唯!


声に出したいけど、夢の中では声が出ないようだ。


ブーーッ

ブザー音が鳴り響く



向日葵みたいだね


「勇輝さんって、面白い表現しますね

向日葵で表現されたの、初めてです

私、向日葵大好きなんですよ!

だから嬉しいです」


これは確か…佑唯と初めて喋った時の事だ

飲み会で同僚の知り合いとして初めて会った。

初めて見た印象、まさしく向日葵そのものだった。

‥‥今思い出しても、こんな表現をしたのは恥ずかしいな



好きです

付き合って下さい


「……私、役者を目指してるんです。

笑っちゃいますよね、役者なんて無理でし

ょって。勇輝さんは本当に素敵な方です。

私にはもったいないくらい素敵です。

だから…」


それでも僕は好きだと言った。

大切な記念日になったのだ。



「私、向日葵のが大好きなの!

なんでかって?

だって向日葵ってさ、明るいでしょ!

上手く説明出来てないって…うるさいなぁ

と!に!か!く!

向日葵は明るくて!綺麗で!可愛いってこ

と!!」



向日葵が大好きだった君に、僕は向日葵をモチーフにした誓いの形を渡した。


泣きながら喜んでくれた君。

舞台の上の君も泣いている。


「正直、悩んだの

役者として、まだまだで、未熟者で

迷惑がかかっちゃうって思った。

受け取れないって思った。

でもね、勇輝の事が好きなの。

これからもずっと一緒に居たい

私のこの気持ちは、間違いなく本物だって

気付いた……嬉しかったよ」


舞台の上で演じる君の台詞は、君の気持ちだと思った

いや、そう思いたかった。


「幸せだった

……でもね、勇輝が待ってくれてる今が

申し訳ないの。

ずっと待たせている今が。

身勝手だって思っちゃうよね。

目を覚まさない私の事、ずっとずっと見守

ってくれてありがとう。

でも、もう大丈夫。

これからは、新しい人と、新しい人生を歩

んでほしいの」


君の声が震えてた。

そんな事ないよ

言葉にしたいけど、言葉にできない

でも今伝えないと、もう2度と戻ってこない気がした。


僕は席を立った

舞台に向かって走り出した

舞台に上がると、泣いている君の正面に立った。


「いくらでも待つよ

好きだから」



—————————————————



目が覚めた


右手に君の温もりが伝わってくる

左手を握り返す温もりが伝わってくる


「……ずっと夢見てたみたい」



ずっとずっと、これから先も

夢の続きを創ろう



























































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