その獣の渇望する咆哮は、この戦乱の世の中を一瞬の風となって駆け抜ける!

——全てを失った男は転生してしまう。

 前世で父親殺しの罪を背負い、前世の記憶を持ち、アベルの核として生まれ変わるが、その世界は剣と魔法の戦乱の世界だった。だとしても、アベルは決してチートでは有りません。
 数奇な運命に翻弄され、激しい戦乱の中、幾度となく繰り返される息を飲む程の命を掛けた戦い。出会いと別れによって、アベルは多くのモノを手に入れ、多くのモノを失ってしまう……。

 その中で巡り逢う多くの人達。尊敬から変わる淡い恋心。失意と妬み。負けられない意地と意地。果てしない絶望と諦めない一握りの希望。強い信念ともとれる執念。各登場人物も魅力ある描写で思わず魅入ってしまう程です。

 剣の師である冷淡な美貌の魔人氏族のイース。お城勤めの城主の姫カチェ、狼獣人のワルト。旅人のライカナ。魔女アス。草原の少女ウルウラ。王道国王子ガイアケロンと妹ハーディア。
 方や敵対する醜悪なイボ蛙のような容姿で、ハーディアを我が物にしようと付け狙う、残虐非道な性格の傭兵団のディド・ズマ。王を守護する狂人・剣聖ヒエラルク。最も圧倒的な威圧を放つ宿敵イズファヤート王。

 絡み合い繋がっていく運命の人脈と各国の壮絶な戦乱の社会状況。その中で自らの心の奥底で芽生える飢えと巨大な渇望。アベルの生き様に目が離せない……。

 背景と心理描写も巧みに描かれて、そして入念に作り込まれた世界観。大人向けのダークファンタジーでありながら、心を揺さぶるヒューマンドラマを併せ持っています。類を見ない壮大な世界観を持ち、その中で成長していくアベル。
 予測不能な展開に期待が膨らむばかりです——。

 作者を陰ながら応援し、完結まで是非とも見守りたい一作。そして何度読み返しても、痺れる名作が此処にあります。

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