永遠に続く3分があるだなんて誰が決めたんだ!
ハイロック
「パンデミック」
――ずっと続くものがある。
それは僕たちのそばにいつでもあって、
でももういいかなと思って、
気づけば見向きもされなくなっていく存在。
でもずっと続いていたのだ、僕たちの知らないところで……。
昨日の彼を君は知らないだろう。
そう、ほとんどの人は知らない、だってまともに彼を見ようとしないから。
だから、最後に彼を見てほしいんだ。
彼の最後の3分だけでも見てほしい、いいだろうそれくらいは。
――2020年、日本、東京オリンピックの直前。
「首相、やはりこのままでは国民全体に拡散する恐れがあります、やむをえません」
「しかし、いくら何でもその判断は……」
閣議では、厚生労働大臣が激しく首相に迫っていた。
首相の表情は重く、明らかに決断を躊躇している。
2020年、オリンピックを目前にして、日本は緊迫した状態を迎えていた。
数年前、日本を騒がせた「鳥インフルエンザ」その新型が今年も流行ろうとしていた。すでに九州の一部の県の鶏卵農家は全滅しており、本土への上陸も待ったなしという状況である。
ただしこの鳥インフルエンザ、ニワトリのみに感染するらしく、感染経緯は不明なものの、なぜか感染した鳥を中心として同心円状のニワトリにのみ発症する性質をもっていた。
完全に空気を遮断しても、感染は止まらなかった。
「だが、まだ人に感染するとは決まってないのだろう」
「……ですが、すでに中国では変成が起き人への感染も始まってます。すでに死者が出たとも報告されました」
答えたのは厚生大臣、だいぶこわばった顔で報告を行う。
もし、オリンピック開催中の日本において、鳥インフルエンザが変異を行い人に感染するようになれば、未曽有のパンデミックとなることは間違いない
「やむを得ないということか……人に感染する前に……」
「首相、辛い判断ですが、きっと後世で人類を救ったリーダーとしてたたえられますよ」
「……そんなもんいらんよ、ただただ、鶏卵農家の方々に申し訳ないだけだ。農水大臣、彼らには可能な限りの援助をする手配をするように」
首相は決断を下した。
そして数時間後、官房長官の発表で、日本国における全ニワトリの殺処分が発表された。突然の出来事に多くの国民は動揺し、そして首相のバッシングを始めた。
『ふざけるな、国民に卵を食べるなっていうのか!』
『ニワトリ農家の人たちがどうなってしまうのかわかってるのか』
『くっそー、あいつに投げつける卵も手に入らねぇ!』
翌日の新聞紙面にも「戦後最大の虐殺者」などの言葉が並び、末代までニワトリの呪いを受けるだろうと書かれた。
それでも、時がたつにつれ人類を守るためには仕方がないという論調が生まれるようになった。数週間後、日本の店、そして家庭の中から、たまご、そして鶏肉がなくなってしまったが、国民は何とか世界の人のためだと納得させた。
多くの企業が対応に四苦八苦した。焼き鳥屋は、焼くものを豚や、牛へと変え、なんとクジラも焼くようになった。
ニワトリを失ってしまった日本はかわいそうだと世界中が嘆き、捕鯨反対団体が日本は仕方ないということで、捕鯨解禁を許したのだった。
やったねニッポン。
また、焼き鳥屋は、食用ガエルと鳥が味が似ているということを聞きつけ、多くの企業が中国から食用ガエルを輸入するようになった。
もちろん自らカエルの育成を始める企業も無数に現れ、夜になると日本中のいたるところでカエルの鳴き声が響くようになった。
――ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ!
「ああ、もううるさいわね!眠れないわっ!」
カエル騒音により、睡眠不足になる人が増え、結果睡眠用の耳せんが爆発的にヒットしたり、不愉快という理由でカエルの歌が童謡リストから削除されたりした。
パチンコ屋にあるパルサーという台は片っ端からタバコによって根性焼きされたりするという地味な被害も広がった。
カエルには罪がないのに、かわいそうカエルちゃん。
それでもカエルによって鶏肉危機は回避された。
――問題は「卵」である。
卵の代替は見つからない。ウズラの卵では小さいし、ダチョウの卵は、そもそも殻が割れない。
様々な卵が試された、ガンやハト、ウグイス、ツバメ、ホオジロ、フクロウ、スズメ、トカゲ、ウミガメ、十姉妹、カラマツ、オソマツ、ネズミ……。
うん、誰だネズミが卵を産むなんて言った馬鹿は?
ありとあらゆる卵が試された。
それでもニワトリの代わりになる卵はみつからなかった、当たり前だ。その作業はすでに先人たちがずっと行ってきたうえで、ニワトリに落ち着いたのだから。
そもそも味が似ていても、飛ぶ鳥は家畜に向いていない。量産は不可能だ。
困ってしまった洋菓子業者は、次々と倒産していった。
――そんな中、あの巨大企業も倒産の危機にあった。
「社長もう無理です、在庫もありませんこれ以上の継続は」
「……だが、わが社には他の商品だってあるだろう」
「そうですが……やはり卵の件でイメージは相当悪く、いま株価は上場以来最低値です」
「わかっているさ、あれはやめざるを得ないだろうな。そんな余裕はわが社にはとてもない」
「……はい、残念です。国民のみんなの期待を裏切るような形になってしまって」
「60年か……とても長かった。まさか、こんな形で終わりを迎えようとはな」
「ええ、お疲れ様と言ってあげましょう。卵がないのです仕方ありません」
一週間後、テレビ画面に衝撃の言葉が浮かんだ。
そんな日が来るとはだれもが思っていなかった
テレビ画面を見た国民は、永遠に続くと思っていたそれが突然終わってしまうのだという事実に、驚嘆し、そして涙を流すものもいた。
『キューピー3分クッキング 最終回』
――これが、最後の3分間。
永遠に続く3分があるだなんて誰が決めたんだ! ハイロック @hirock47
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