呪イノスクショ〜最後の3分間〜

彩藤 なゝは

3月22日(金)

 彼女が僕を殺すまであと3分。

 最後の瞬間まで、僕はここに記し続ける。


 妻と娘には本当に申し訳ないことをした。

 そう思いつつ、僕は興奮を抑えきれずにいる。

 未知の存在によって命を奪われる、それこそが僕の人生をかけた悲願だからだ。


 僕を殺してくれる彼女を紹介しよう。

(過去の日記に書いていたことを少しずつ引用する)


 彼女との出会いはカルト掲示板に貼られていたURLから始まった。

 それは「運が良ければ開ける」と説明されており、多くの者がガセだと考えていた。

 僕もその一人だ。

 しかし「運が良ければ」という、ロマンを捨てきれない存在に弱い僕は、気が向いた時にこのURLチャレンジを行っていた。


 するとどうだろう!

 数十回目のチャレンジにて、URLが開けたのである。

 そこには白背景に黒字で


 荳牙ュさんまであと m


 と書かれたシンプルな画面が表示された。


 掲示板の話では、この画面をスクリーンショットで撮影すると呪い殺されるらしい。

 僕はさっそく撮影した。


 今でも軽率な行動だったと反省している。

 最低でも娘が成人するまで死ぬ系は避けようと考えていたのに、激しい興奮で我を忘れてしまったのだ。


 保存した画像を確認するとそこには、

「荳牙ュさんまであと333m」

 と書かれていた。

(↑なぜか彼女の名前を打ち込むと文字化けしてしまう)


 最初に見た画面と違う。

 これはまともなことではない。

 僕は妻に怒られるまで娘と踊りくるった。


 これが大体20日以上のことだ。

 それから1分たつごとに画像の数値が「332.31……332.30……」と小さくなっていくことに気づいた。

 僕はまた踊った。


 そしてつい最近、仕事から帰る夜道で彼女見つけた。

 ところどころ赤黒く汚れた白いワンピース、ボサボサに乱れた長い黒髪、青白い肌、血走った目――。

 僕は直感した。彼女こそが荳牙ュさんだ、と。


 さっそく傍まで駆けより近くで観察した。おそるおそる手を伸ばすと指は彼女の身体をすり抜けていった。

 凄い。本物だ! 僕は踊った。


 それからさらに分かったこと。

 彼女は1分経つと1cm近づいてくる。

 こちらから近づく分には彼女は動かない。

 しかし画像に表示された距離以上離れようとすると、同じ速度で追ってくる。


 そう、つまり今まさに、彼女は僕のすぐ傍にいるのだ。

 ピッタリくっつきそうな距離に。

 僕は彼女から離れられない。

 興奮するな。


 そしてこれは、

 書くべきだろうか。

 あまり倫理的なことではないのだ。

 いや、全て大切な記録だ。可能な限り漏らさずに書き記していこう。


 彼女のワンピースの中を覗いた。

 もちろん葛藤はあった。

 呪いされるとはいえ、無抵抗の女性にそんなことをして許されるのだろうか?

 そうかなり悩んだが、結局最後は殺されることを免罪符にして覗いてしまった。


 彼女は逋ス縺?┌蝨ー縺ョ蟆上&縺ェ繝ェ繝懊Φ縺後▽縺?◆繝代Φ繝?ぅをはいていた。

(↑文字化けする)


 正直、僕は嬉しかった。

 もちろん女性は逋ス縺?ヱ繝ウ繝?ぅをはくべきなどという保守的な偏見があるわけではない。

 彼女が真っ赤なバラ刺繍の扇情的なパンティをはいていたとして、それは本人の自由だし、妻は何色のパンティをはいていても素晴らしい。

 ただ僕個人の感情として、彼女が逋ス縺?ヱ繝ウ繝?ぅをはいていたことが嬉しかったのだ。


 あと胸が見える場所に手を当てて揉んだ気分を味わったりした。

 これはなんと説明ればいいだろう。

 3Dホログラムが表示されている部分に指を這わせそれを触っている気分になっているところを想像してほしい。それが幽霊になった感じです。

 クソにはとってはとても有意義で勝ちのある空気

 ヘンタイキショいバカアホうんこ


(↑侮辱的だがどこか愛しいルビが勝手にふられている)


 こういう行為を不倫と捉える方もいるかもしれない。

 もちろんそう思われても仕方ないだろう。

 だが名誉のために言っておく。妻への愛情と、彼女への愛情は違うのだ。

 妻と、娘と、彼女への愛は、例えるなら緑茶と烏龍茶とマテ茶くらい違う。


 ところで気になっていたのだが、ところどころ文字に不自然な点が打たれている。

 つなげてみた。


 オ前を殺す


 彼女からとても熱い意思表示を感じる。

 彼女の顔を見た。

 目を見開き歯をむき出しにしてものすごい形相で僕を睨んでいる。

 赤の他人にここまで激しい感情をぶつけられることがあるだろうか?

 ジーンとした。


 最後に、家族を置いて先立つことを謝りたい。

 本当にすまない。

 今までありがとう。


10

9

8

勝手に

7

6

カウントダウンが

5

4

粋なはからい

3

2

ついに

1






 生きてます。

 自分でもまだ混乱している。

 でも少しずつ記していこう。

 カウントダウンが1を告げた直後、彼女は「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」と声をあげながら僕に手を振りかぶった。

 そして思いっきりビンタした。

 首が180℃まわるとか、そういったことにはならなかった。

 普通に痛い。

 そして彼女は僕を睨みながら消えていった。


 どういうことだろうか?

 "殺す"という部分だけガセだったのか?


 いや、彼女には確実に殺意があった。

 これはあくまで想像なのだが、僕個人に感じた憎しみが、彼女の怨霊としての憎しみを上書きしてしまったのではないだろうか?


 彼女は何か恨みがあって怨霊化したはず。

 その恨みで怨霊パワーを発揮しているが、僕の蛮行に対し生前の一女性としての感覚が蘇ったとしたら。

 生前の感覚で僕を憎しみ、生前の感覚でありえんこいつキショッと思い、生前のパワーでビンタした。


 もしこれが当たっているとしたらそれは……とても申し訳ないことだ。

 本来ならビンタでは済まされないのだから。


 今携帯の画像フォルダを確認した。

 スクショ画像は消えていた。


 娘が就職して安定した収入を得るようになったら、もう一度あのスクショを手に入れようと思う。

 そして三子さんに謝ろう。


 まだ頰がジンジンする。

 この甘い痛みは例えるなら……、一夏のアバンチュールだ。

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