エッチなABCの歌~ドレミの歌に乗せて~

四葉くらめ

エッチなABCの歌~ドレミの歌に乗せて~

 バカというものはどこにでもいる。

 それは楽しくバカ騒ぎをするような男子高校生だったり、好きな人にまっすぐぶち当たる野郎だったり。

 あるいはバカ正直に間違いに反抗する主人公みたいなやつだったり、くだらないことに真面目になるやつだったり。

 まあともかく、そういう色んなバカがいたり、あるいは小説や漫画などでたくさん書かれているわけだが、実は俺のすぐ近くにもバカがいる。


智弘ともひろ! 僕、エッチなABCの歌を考えたんだよ!」


 そう言って、何が嬉しいのか目をキラキラさせて、少しだけ低い位置から俺を見上げてくるのは同じクラスのみなみ幸太郎こうたろうだった。

 うん、やっぱこいつバカだわ。しかもあれだよ。いい意味のバカじゃなくて、ただただ単純にバカなんだよこいつ。


   ◇◆◇◆◇◆


「で? なんだ、そのエッチなABCの歌ってのは」

 まあエッチなことが大好きな男子高校生のことである。いや、俺は違うけども。どうせABCの歌をエッチな感じに替え歌にしたのだろう。いや、俺はやったことないけど。

「今から歌うから聞いててね」

 放課後の二人だけの教室で俺は一体何を聞かされようとしているのか。

 アホらしいと思いながらも、俺は椅子に座り、幸太郎は立って一度喉を整えるように咳をした。

「A~はエーッチのAぇ~」

「ちょっと待てや!」

 ABCの歌って言うからてっきり『きらきら星』を歌うのかと思っていたら、全然違った。まさかのドレミの歌だった!

「それABCの歌じゃなくてドレミの歌じゃねえか!」

「ABCの歌?」

 まさかこいつ……ABCの歌を知らないなんてことないよな……?

「あれだよ。ABCDEFG~ってZまで歌うやつだよ」

 ちなみに歌い方に微妙に違いがあったり、Z以降の歌詞に色々なパターンがあったりするらしい。

「ああ、あの歌ね。あれ最後まで歌うの難しいよね。英語最後まで覚えなくちゃいけないし」

 まさかこいつ……アルファベットを最後まで覚えてないんじゃなかろうな……。

「にしても確かにそれじゃあややこしいか。どうしよう、智弘」

「そうだな。『エッチなABCの歌~ドレミの歌に乗せて~』とかにしたら紛らわしくないんじゃないのか?」

「それだね! 流石だよ智弘!」

「ふっ、まあな」

「それじゃあ改めて。

 A~はエーッチのAぇ~

 B~はバストのBぁ~」

 よく考えたらAがエッチのAってわけわかんねぇな。

 もうツッコむタイミングを逃したから言わないけど。

「C~はちゅっちゅのCぃ~

 D~はドキドキのDぃ~」

 ここら辺はまあ順当というか可愛いぐらいである。エッチな歌というから期待まちがえた覚悟していたのだが、これ以上は気を張る必要はなさそうだ。

「E~はエーッチのEぃ~」

「それさっき使っただろうが!」

「F~はふしだらのFぅ~」

 MUSHI!

「G~は実はみんな~」

 みんな?

「ああH~だ~ね~!」

 ぷっ。

 不覚にも上手いと思ってしまった。

「A、B、C、D、E、F、G、H

 H、ふん、ふん、ふん、ふん、ふん、ふん、A」

 どうやら逆方向には言えなかったらしい。あとなんかひとつ多いぞ。

「んーふっふー、るーらったー、たーらったー、とぅーらーらー♪

 んーふふー、るーらたー、たーらたー、とぅーららー♪

 とぅーるー、るーるー、んーふーふー♪

 とぅーるー、らーらー、るーらーらー♪」

 パチパチと人のいない教室に手を叩く音が響き渡る。

 最後の方はかなりてきとうだったが、まあ拍手ぐらいはしてやってもいいだろう。

「どうかなどうかな? 智弘的にはこの歌どう思う!?」

「ああ、最高だな。オリコン一位になって全米が泣く可能性すらある」

「やっぱり!?」

 いや真面目に捉えるな。良心が痛……いや、こいつに対してはそんなに良心痛まないな。

「じゃあ今度皆にも教えてあげないと!」

「あー、そうだな。頑張れ」

「うん!」


   ◇◆◇◆◇◆


 バカというものはどこにでもいる。

 それは楽しくバカ騒ぎをするような男子高校生だったり、好きな人にまっすぐぶち当たる野郎だったり。

 それから……


『A~はエーッチのAぇ~』

『B~はバストのBぁ~』


 バカな男子の作ったバカな歌を、楽し気に歌うバカ共である。


   〈了〉

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エッチなABCの歌~ドレミの歌に乗せて~ 四葉くらめ @kurame_yotsuba

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