第76話、任天堂のセガ買収をNYタイムズが書き水戸芸でゲームの美術展が開かれ八谷和彦のエアボードが銀座に浮かびインパクが始まって20世紀が終わる

【平成12年(2000年)12月の巻】


 あのニューヨーク・タイムズが、任天堂によるセガの買収という記事を掲載して大騒ぎになりました。京都や大鳥居に電話をしていろいろと尋ねてもそうした話は微塵も出ず、どちらも事実無根と完全否定していました。


 これがニューヨーク・ポストとかウィークリー・ワールド・ニューズ(宇宙人がホワイトハウスを訪ねたりする新聞)だったらともかく、ワシントン・ポストと並んで世界きってのエスタブリッシュメント紙が掲載したから、信憑性が高いと感じられたところがありました。任天堂の山内溥社長が「弊社がセガ社を買収するという情報は全く誤りであり、弊社がセガ社を買収することは100%ない」とコメントしても、任天堂が買わなくても山内個人が買うかもといった憶測が飛び交いました。


 結果は、そうした状況には至らず任天堂は翌年、セガではなくイチローを応援してシアトル・マリナーズへと送り込みます。セガはやがてサミー傘下となり、スクウェアとエニックスが合併し、バンダイとナムコの経営統合があってコーエーはテクモといっしょになるなどゲーム業界の再編が21世紀に進みます。けれども任天堂は任天堂のままで居続けています。強靱です。


 先月の静岡に続いて、この月は水戸に行ったようです。水戸芸術館現代美術センターで開かれていた「ビット・ジェネレーション2000 テレビゲーム展」を見に行ったのですが、到着した美術館では地震が起こるとNHKで映し出される高さ100メートルのタワーの前に赤絨毯が敷かれ、結婚式が開かれていました。確かに映えますから。


 さて「ビット・ジェネレーション2000 テレビゲーム展」。ゲームが現代アートなのかといった問いも浮かびましたが、そもそもがゲーム自体がCG映像や電子音楽を取り入れた「総合芸術」的な存在になっても来ていて、重なる部分もあると思いつつ一方では歴然として玩具の延長であり、エンターテインメントの最先端であり工業品の一形態であるため、釈然としない思いも抱いたようです。


 水戸芸術館の浅井俊裕による解説によれば、作者の自意識的積極的主体的な部分での「イズム」とか「コンセプト」の有無からテレビゲームに芸術性はあっても現代美術ではないとのこと。とりあえずの区分としては分かりやすいと感じました。現代美術が殺ぎ落として来た物語をゲームが持っていることの素晴らしさ、かつその物語なり世界観はプレーヤーの能動的なアプローチによってのみ見えて来るという点での、現代美術との共通性についても触れられていたようです。


 そんな展覧会の展示もゲームの「現代美術性」を妙に誇張したものにはしておらず、古今のゲーム機やソフトが順繰りに並べてあるといった、博物館的なアプローチに近いものでした。ところどころに「ドラクエ」からのセリフがドットの粗い文字で壁に書かれてあるあたりは美術展的。大きなスクリーンに映し出された「ポン」や「スペースインベーダー」を遊べるようにもなっていて、インタラクティブなメディアアートに近いニュアンスを感じさせてくれました。


 今のデジタルコンテンツ協会が、まだマルチメディアコンテンツ振興協会だった頃に開催していた「マルチメディアグランプリ2000」が発表されたので見てきました。グランプリは黒澤明の映画で美術を担当した人のスケッチとか、写真をデジタル化して、永久保存しようとするプロジェクト『黒澤明映画のための村木与四郎・忍デジタルアーカイブ』でした。インタラクティブムービー的な迫力はないけれど、デジタルの良さを存分に活かしつつ未来へと遺産を継承しようとする志の高さが見えました。


 受賞式では子息の黒澤久雄が「21世紀は新しいものとかいうけど古いものも連れてってくれよ」と苦言を呈していたのが印象的でした。人物賞のMMCA会長賞は坂口博信。『ファイナルファンタジー・ザ・ムービー』の功績もあってのことでしょうか。映像の一部が上映されましたが、表情のリアルさに比べると手足の棒的な動きがところどころで気になったようです。


 同じCG映像でもリアルさの追究よりは面白さの追究をまずもって来て、そこに3DCGならではの表現力を加味してくれた『PiNmen』の方が完成されているとも感じました。作者の池田爆発郎監督は、このマルチメディアグランプリで新しい才能に与えられる部門の優秀賞「銀の翼」を獲得しました。そんな授賞式には月尾嘉男、浜野保樹、武邑光裕、河口洋一郎さんとマルチメディアな学識経験者がそろい踏み。21世紀になっても活躍を続けますが、中でもし存命なら浜野保樹が今を代表していたような気がしてなりません。

 

 銀座のソニービルにエアボードが登場しました。今は『風の谷のナウシカ』に登場するメーヴェを再現して空を飛ばしているメディアアーティストの八谷和彦が、当時はジェットエンジンで浮かび上がるボードを作っていろいろなところでデモをしていました。ソニービルでも公開実験が行われたのですが、最初の回は点火できずに終了。それでも間を置いての2回目の実験では、カバーを取った状態でしっかりと点火に成功し、そこからカバーをかけて地べたにおいて滑空の実験へと移りました。


 空中に浮かび上がって飛ぶのではなく、ちょっとだけ浮かんだボードの上に片足を載せて片足で地面を蹴ってスイーッと滑る感じのデモでしたが、それでも重力に逆らってみせる格好良さは感じられました。ここから次は空へと上がってしまうのだから凄いというか、思いを形にするために積み重ねていく努力の尊さを改めて感じさせられます。


 インターネット博覧会が12月31日から始まるのを受けて開かれたプレスレビューに、平成13年(2001年)すなわち21世紀で最初の「インパク編集部」編集長を請け負うことになった糸井重里が登壇したので見に行きました。編集部の方針として挙げたのが、「混沌を作り出す」ということ。ネットはテレビでありラジオであり雑誌でありといった具合に「いろいろな方向があるんだということを見せる場所を作る」のだと言って、ネットが持つ多様な可能性を指摘していました。


 「何が出てくるか分からない」ドットの集合をネット上に作るんだといったことも話したでしょうか。中心があるのではなくいろいろな窓があちこち開いて繋がっている感覚。そこには、ネットの特性を的確に踏まえた状況を、「インパク」という枠組みの中に具現化してみせようといることが伺えました。


 「他のメディアとつながらないことには成功しないし、メディアどうしがリンクすることだって必要。1年のなかでそんな練習を積み重ねていこう」と会社別に孤立していたオールドメディアの悪い部分を突き、「ネットで出来ることが増えていくと、今度は止めることの知性が語られるようになる。テレビって受け身のメディアでスイッチを切ることに抵抗感はないけど、ネットは前のめりになってやめるのが難しい。寝るのも自分の判断。そこが少し問題になっていくんじゃないのかなあ」とも話して、ハマると深いネット沼の危険性も訴えていました。やはり鋭敏な感性の持ち主だったということでしょう。だから「ほぼ日」は大成功。対して僕は……とやっぱりグチが出ます。


 公開前に国会議員がいろいろと文句を付けて話題になった映画『バトル・ロワイアル』が公開されたようです。出足は上々で、話題が逆に宣伝になってしまったひとつの例だといえます。抑圧されて殺し合いをやらされる中学生を描いた作品が、当の中学生には見てもらえない状況は残念でしたが、見た感想として「これはやっぱり『子供に見せてはいけない映画』だった」と書いています。それはもちろん逆説的な意味で。


 国が法律で定めさえすれば殺し合いだって正当化される、それこそ命令があれば戦争に行って死ぬことにだって従わざるを得なくなることへの反抗心を煽って、国が国民を管理し統制しづらくさせるような内容だった、というのがその理由。見せれば国への批判も起こったでしょう……と言いたいのですが、今は何をされても搾取されても、政権への支持率は変わらず総理の悪口を言えば批判される状況。『バトル・ロワイアル』の公開くらいでビクともしないくらい、情動が起こらなくなっています。上映禁止だって支持されてしまうかも。そんな21世紀が来ると当時、予想できたでそうか。萌芽はあったのかもしれませんが……。


 そして迎えた20世紀から21世紀の移行を、皇居前広場で過ごしました。元号が平成から令和に変わった時のような派手なカウントダウンイベントなど行われておらず、シンと静まりかえった中をポツン、ポツンと立っている警察官の姿が見えた程度でした。


 「日本の皇室が多分、存続を問われて大きく揺れたのはやっぱり1945年の敗戦ってことになるんだろう」「生き残ってしまってかれこれ50余年、もはや存続と問うことすら困難な、21世紀の訪れを盛大に祝うことなんてはばかれるくらいの存在に奉られてしまった」。触れがたい皇室というイメージがあったようです。平成から令和に変わった時はどうだったでしょうか。存命のままの譲位でしたから、お祝いムードもいっぱいでした。親しみを得た皇室。けれども22世紀には果たしてどうなっているか。それが今は気になってなりません。


平成12年(2000年)12月のダイジェストでした。


 さて、平成を振り返ると言って始めたこの連載ですが、希望退職後の自分の先行きがまるで見えず将来への不安にまみれる中、楽しげにあちこちを飛び回っていた過去と向かい合って、こんなことはもうないんだと思い気持が沈んでしまいがちになって来たので、ひとまず20世紀をまとめたこのあたりまでとさせていただこうかと思っています。気が変わったら再会するかもしれません。よしなに。


タニグチリウイチ

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平成の4分の3をカバーするウェブ日記『日刊リウイチ』から平成を振り返る タニグチリウイチ @uranichi

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