過激なロマンス~戦場で会った敵がどストライクだった件。愛の手榴弾受け取って~

達見ゆう

愛の手榴弾って何ぞ?

 ここはカルダモン共和国とシナモン帝国の国境線。又の名を紛争地帯。

 互いの領地を増やすべく、今日も硝煙があちこちに立ち込め、銃声や爆発音があちこちから響く戦場でもある。


 あたしことアイリスは女性ながらも実績をあげ、小隊を率いる大佐へと昇進したばかりだ。


「アイリス大佐、奴を見つけました。十時ヒトマルの方向百メートルほど先におります」


「ご苦労。あとは私がやるわ」


「しかし、このような接近戦は危険が伴います。やはり作戦を変えた方が……」


「私の作戦に従いなさい。あと、彼には手を出さないように。私が自らやって捕らえます」


 そう、宿敵とでも言うべきシナモン帝国の傭兵ベイリーフ。彼一人で二百人の小隊を全滅させたとう伝説すらある凄腕だ。

 我が軍は一時は彼を捕らえたが、巧みに逃げられてしまった。彼の世話係でもあったあたしは上司と共に処罰を受けたものだ。

 あの屈辱を晴らすべくにも奴はあたしが捕らえる、そしてモノにしてみ……。


「大佐、敵が接近しています!」


 こほん。よし! まずはご挨拶よ!


「久しぶりねぇ、ベイリーフ殿!」


 彼に狙いを定めてまずは銃を数発撃って様子を見る。もちろん、怪我させないようにギリギリの位置だ。愛するダーリンに怪我なんてさせられない。


「よお、熱烈な銃弾ラブコールを、ありがとう!」


 彼もマシンガンで応酬してくるのを塹壕に隠れてやり過ごす。

 なかなかパンチが効いたお返事だこと。そうでなくちゃ。


 あたしは銃を構え、再び応酬する。


「ひどいじゃない、逃げるなんて。あたしの献身的な愛は届かなかったようね」


「ああ、悪いね。君の作る軍用食レーションよりこっちの飯がうまいからね」


「そ、そりゃレーションなんだから仕方ないじゃない。だから愛情かけてアレンジを……」


「いや、あれは魔改造とでも言うべき代物だ。牛丼にスパイスぶちこんでもカレーにはならないさ」


「う……確かにそうだけど、限られた環境では仕方ないじゃない」


 痛いところをついてくる。確かに支給品は今一つだ。だから持参した調味料や保存食材でアレンジして食べさせていた。ピクルスの代わりに沢庵を加えたシチューになるのも仕方ないじゃないの。あたしの工夫と愛情は足りなかったのかしら。


「それに夜中に頻繁に見回りに来て安眠を邪魔してきた。拷問というには微妙だったな」


「そ、それはあなたに会いたかっ……に、逃げないか、こ、こまめに見張りをしなくてはならなかったからよ!」


「へえ、わざわざ見張り兵を買収して人払いをして、なおかつ拘束を緩めてくれるのが?」


「だって、拘束されて痛そうだったし、第一邪魔者がいたらアプローチでき……ええい! うるさい! あんたが逃げたせいで世話係のあたしが逃がしたのじゃないかって、軍法会議にかけられて散々だったんだから!」


 あたしは照れ隠しにさらに数発撃ち込む。それを彼は巧みに避けていく。やはり反射神経は優れている。


「やあ、それは悪かった。でも、どうしてもある品物を注文したかったから逃げたんだ」


 品物の注文ごときで脱走とは意味がわからない。しかし、このまま彼との撃ち合いするのも楽しいけど、部下を持っている手前、そろそろ示しをつけなければならない。


「そう、彼女へのプレゼントってところかしら。さて、前菜は終わり、メインディッシュのこちらを召し上がれ。あたしからの愛のプレゼントッ!」


 カチッとピンを抜き、力一杯手榴弾を彼の元へ投げる。そう、彼ならなんとかするはず。


 激しい爆発音と砂塵を吹き上げる煙が立ち込める。もし、逃げた本当の理由があちら側に本当に彼女がいるとしたら……。手に入らないならいっそのことあたしの手で始末するのもいい。


「大佐、やりましたかね?」


 すっかり存在を忘れていた部下が期待したように尋ねてくるが、煙がすごくて確認できない。どうなったかしら?


 煙の中からシルエットが見えてきた。あのがっしりした形は彼だ。


「とんだプレゼントだな、マイハニー。おかげで一張羅が破けたぜ」


 彼がボロボロになった服で微笑んでいる。

 って、待って。あたしのことマイハニーって呼んだ?


「これをお見舞いしてやるぜっ!」


 どぎまぎする間もなく、彼が何かを投げてきた。手榴弾のお返しか。

 しかし、あたし達の陣に落ちてきたそれは確かに手榴弾の形をしているがキラキラしている。


「ガラス細工の手榴弾?」


「そうさ、日本のガラス職人に注文したのさ、それを引取に脱出した。それ、ちょっとした仕掛けがあるんだ。それは自分で見つけてくれ! じゃ、今度こそ俺は帝国へ引き揚げるぜ、さらば麗しの大佐殿」


 そういうと煙幕を張り、今度こそ消えてしまった。え? プレゼント? そのために脱出?


 手榴弾を拾い上げて回収する。保護材をめくると多面体のキラキラした手榴弾型のガラス細工が出てきた。砂地に落ちたからクッションとなり割れてはいない。仕掛けと言ってたがなんだろう?


「自分、それを知ってます。大佐殿!」


 またも存在を忘れていた部下が声をあげてきた。


「日本のガラス職人の物で、日に当てるとメッセージが出るガラス細工が流行っているそうです。だから、日差しにかざすと何らかのメッセージが出て来ます! ほら、そこに!」


 地面を見ると、確かに文字が浮かんでいる。


『DEAR MY LOVER』


 え、 MY LOVER? それって、あたし? そ、そんな、敵なのに。


「自分、何も見なかったことにします! 」


 部下の無粋な言葉も頭の中に通り抜けて、ガラス細工の手榴弾を眺めながら、顔が熱くなる自分を自覚していた。


 ……ここは国境線。硝煙立ち込める紛争地帯である。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

過激なロマンス~戦場で会った敵がどストライクだった件。愛の手榴弾受け取って~ 達見ゆう @tatsumi-12

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ