狙うは……ブービー賞
亥BAR
さぁ、真剣勝負だ!
ババ抜き。
それは探り合い、相手を出し抜く究極の頭脳・心理ゲーム。
最初、六人で始まったこのゲームは三人を残すことになっていた。
むろん、一位から三位の景品はなくなり、残されたのは下位三つ。
四位【謎のキャラシール】 実に欲しくない、貰った瞬間ゴミ箱直行。
六位【たわし三個セット】 万能。あまりに万能! 掃除をしろを言っている!
そして五位ィィ!! それは……【ブービー賞】!!
明らかにほかとは異なる存在感。ずっしりとした重みに、輝かしいほどの梱包された箱。これは……期待せざるを得ない。
「残り……三人か」
メガネくんがメガネをクイっと上げる。残り手札 五枚。
「流石に、これ以上、黙ってるわけにはいかねえなぁ?」
気合を入れる茶髪野郎。残り手札 三枚。
「さぁ、続けましょうか」
黒髪少女が長い黒髪をさらりとはらう。残り手札 同じく三枚。
勝負続行!!
メガネくんから黒髪少女が引く。そして黒髪少女から茶髪野郎が引く。そして、茶髪野郎からメガネくんが引く。
それが続く!
続く!
続くぅ!!
不自然である。誠に不自然である。
一向に誰も手札が揃う気配がない。三人の合計手札は十一枚。確率的には簡単に揃う。だが実際は何回もグルグルと手番が周回するのみで、手札の枚数は変わらない。
そこで、三人。気づく!
『全員がブービー賞狙い』であると!!
事実、この三人。一回以上手札にペアが出来上がった。だが、それをスルーしていたのである。揃っていながら、揃っていなかったふりをして、次の手番に回す。
すなわち、ZU★RUである。
誰かしらを勝たせて四位の品を持って行かせたところで、颯爽と(ビリから)二番目の座につく。そして、ブービー賞をいただくのが、三人の狙い。
メガネくんはここで悟る。このままではゲームが一生終わらない。であれば、ゲームはうやむや、景品がなくなる恐れがあると。
だが、チャンスは同時に巡ってくるものである。メガネくん、ここにきて、黒髪少女の手札が見えたのである。
ハッと気づく黒髪少女。手札を隠すがそのメガネに曇りはなかった。その手札、A、7、K。そして、メガネくんの手札五枚の中には三つともある。すなわち、揃えさすのは容易。
「じゃあ、わたしの番ね」
黒髪少女、メガネくんの手札の一枚を引っ張る。だが、メガネくん、そこで力をいれた! 引かせない、意地でも引かせない! なぜなら、その一枚はジョーカー、すなわちババ!!
もし、これを引かれたら、黒髪少女の手札はバラバラのまま! それはメガネくん、いただけない!
対して、引っ張る黒髪少女。
「随分と頑張るね……反則じゃなくて?」
「いいや、それはジョーカーだから。君が引いたら不利になる。忠告をしているだけだよ。僕の優しさを汲み取って欲しいね」
メガネくん、嘘はついていない!!
黒髪少女、焦る。このままだと永久に引かせてもらえない。相手は男子、力の差では負ける。では……他の一枚に変えるほかない。
だけど、揃えるわけにはいかない。揃えたら手札が減る! 勝利に一歩近づいてしまうのだ!!
慎重に……慎重に、黒髪少女、隣の一枚に触れる!
その瞬間、メガネくん、動く! さらっと手札を引っこ抜く。さっき力を入れていたのとは真逆、触れた瞬間の引き抜き。
黒髪少女の手にはAが残る!!
してやったり、メガネくん。
だが、そのカードをみた黒髪少女。舌打ち、そしてそのまま手札に収めシャッフル。なに食わぬ顔で茶髪野郎に手番を回そうとする。Aのペアが揃っているのに。
ZU✩RU発動!
だが、ここでメガネくん、仕掛ける。
「あぁ、Aを取られちまったか……」
引かれたカードの宣言である! これは一見、ババ抜きでは対した意味はない情報である。だが、この状況においては別。
茶髪野郎、反応!
「あれ? 俺の手札にもAがねえなぁ?」
茶髪野郎、不敵な笑みで黒髪少女を見る! 見る!!
そう、茶髪野郎もまた(ビリから)二番目狙い。であるなら、誰か一人は先に勝たせたい。なら、このチャンスを逃す手はない。
「俺にも、メガネの手札にもAがないと? あれ? もう一枚はどこに行った?」
当然、メガネくん。黒髪少女に視線を送る。
「何を言っているの? 揃ってないけど? 舌打ちもしたじゃない。どっちか、嘘をついているんじゃないの?」
言い逃れ。
だが、茶髪野郎、さらに責める。
「はぁ? そんな嘘言ってどうする? 何の意味もねえだろ? それこそ、お前嘘ついているんだろ? なんなら、俺。手札、公開してやってもいいぜ?」
この発言、当然黒髪少女は驚愕。
「何を言っているの? 頭、おかしくなった?」
「そんなことないぞ。俺が手札を公開したら、メガネが自分の手札と比べる。それで、メガネがお前の嘘を見抜くんだ 無論、俺はどっちが嘘をついているかわからない。だが、ふたりの間でどちらかが嘘つきだと分かる。
どうだ、メガネ? いっそのこと、嘘つきのレッテルを貼られるぐらいなら、お前も手札を公開したらどうだ? これで、こいつの嘘が完全にばれる」
「……悪くない手だ」
「だってよ。変に嘘つきのレッテルを貼られるより、素直にペアを出したほうがいいぞ?」
茶髪野郎、優勢! 圧倒的優勢! ふたりの手札の公開することにより生まれる相手の手札全バレ! ここにきて、ついにペアができるか!?
だが、ここで不敵に笑い返す黒髪少女。
手に汗握る。ここで、これを使うのは彼女にとって得策ではない。だが、もう、ここで仕掛けるしか……ないのだ!!
「そういう茶髪くんこそ、手札を公開しちゃって……いいの?」
「な……なにっ!?」
一瞬、茶髪野郎の背筋が凍る。
「既にJのペア、揃ってるんでしょ?」
「「なっ!?」」
黒髪少女の発言に、茶髪野郎とメガネくん、おののく!! 事実、メガネくんの手札にJはない。そう、本当に茶髪野郎の手札にはJが既に揃っていたのだ。
すなわち、茶髪野郎。自らの危険を顧みず、黒髪少女を陥れるために公開宣言をしていた、すなわち……ブラフ!! ここで、茶髪野郎、本当に公開してしまえば嘘つきは茶髪野郎になる。
だが待てよと、茶髪野郎。
「なぜ、そんなことが分かる? メガネの手札は知らないだろう?」
そう、茶髪野郎の手札情報はどうやって得たのか? 盗み見なのか? しかし、茶髪野郎、ばれるの避けるため、ずっとカードを机に伏せていた。バレるはずがない……。
しかし、そこで黒髪少女、ポケットからあるものを取り出す。ペンである。ペンを得意げに一回回す黒髪少女はそのまま直す。
この意味をいち早く気づいたのはメガネくん。自分のカードの裏を確認。すると、絵柄の部分に分かりにくくランク(数字)のマークがついていたのだ!
そう、黒髪少女。残り三人になったあと、確実に(ビリから)二番目になるため、崇高にして最凶の策、トランプ(所有:主催者(黒髪少女ではない))に細工を施したのである!
「って、イカサマじゃねえか!?」
茶髪野郎、抗議を入れる。だが、黒髪少女、なに食わぬ顔。
「イカサマをしたら負け、イカサマがバレたら負けってルール、あったかしら?」
勝ち誇る黒髪少女。不敵な笑み。
「それとも、今からそのルールを適応する? じゃあ、ペアを隠し持っていた事実はどうなんだろう? なかよく二人で……負けかな?」
すなわち、四位メガネくん、同立六位、黒髪少女と茶髪野郎。たわしを半分わけで、ブービー賞はお流れ?
いや、違う! これは違う。黒髪少女の狙いは別。同立六位になったことによる、最終決戦で勝ち、五位を狙いに行く作戦である!
「それはダメだ!!」
無論、メガネくん。許すはずがない。なぜ、僕がくだらんシールで満足せねばならぬのだと、怒る!
「なら、この状況、どうするの?」
黒髪少女の問いにメガネくん、詰まる。
ここでゲームを続行してもこのままでは不毛な戦いが続く。仮に確定したJペア持ちの茶髪野郎の手札が減って残り一枚になったとしよう。
黒髪少女のAペアは、確定に至っていない。なぜなら、もともとメガネくんが持っていた手札にはマークが施されていないのだ。
それを見込んで、黒髪少女、そのカードに印は付けていない。ゆえに、ペアかどうかの判断は不可……。
「いや、俺の手札に変わらずAはない。そして、茶髪の手札のマーク、Jペアと、それ……Qのマークじゃないか? Aではない」
メガネくん、ここに来て黒髪少女の策を利用する。
「それが本当に正しいマークとは限らないでしょ? 必ずしも、他人にも分かるマークをつけたなんて保証はない」
「いや、どうせJペアがわかっているんだ。いいぜ、その通りだよ!」
そして、茶髪野郎、Qのカードを公開!
「これで、黒髪。お前が」
「待って。メガネくんが嘘を」
「そんなことはないよ! 公開する! Q、K、7、そして、ジョーカーが僕の手札だ!! これで、君のAは……確定だね」
「な……っ!?」
黒髪少女、絶句。ワナワナと、手、震える。
「チクショウッ! これでいいのよね!!」
二枚のトランプ(所有:主催者)、Aのペアを机に叩きつける黒髪少女。そして、鋭い目つきで茶髪野郎を見る。
「お前もだ!! 茶髪ぅ! お前もJペアを捨てなさい!!」
「糞がァ!!」
こうして、二人からペアが完成!
茶髪、手札一枚。
黒髪、手札二枚。
メガネ、 手札四枚(ババ有り)。
次は黒髪少女から茶髪が一枚引く手番である。
残った三人、互いに火花を散らす!!
「俺/僕/わたしの戦いは、これからだぁ!!」
「もう、お前らいいよ」
「「「えっ!?」」」
突如として部外者が乱入! 予想外の事態に三人慌てる。
「まともにゲームしないならもういい」
そう、このゲームの主催者。
主催者は【たわし三個セット】の中身を出し、三人に一個ずつ投げてくる。
「三人とも最下位だ。家の掃除の手伝いでもしとけ。その間、俺はブービー賞のコーヒーセットを淹れて飲んでおいてやる」
「「「……待ってぇええ!!!?」
かくして、ババ抜きは終了した。
「あっ、黒髪。新しいトランプ、買いなおしとけよ」
狙うは……ブービー賞 亥BAR @tadasi
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