きっと誰より優しく尊い2番目
うめもも さくら
誰より優しく尊い2番目
もう人が訪れなくなって久しい。
そんな我が家に靴音がした。
その時初めて彼女を見つけた。
優しくて明るくて無邪気に笑う彼女。
僕は一目で彼女に惚れた。
彼女はその日から毎日のように我が家を訪れた。
彼女は我が家でたくさん遊んだ。
持ってきたお人形で遊んだり、探検したり、庭の木陰で休んだり。
そして僕にたくさんおしゃべりしてくれた。
楽しそうにいろいろなことを話してくれた。
彼女は我が家が一番好きだと笑った。
僕はそれが嬉しくて毎日が楽しくて。
また明日と言って手を振る彼女をいつまでも見ていたかった。
待ち遠しいと焦がれる待つ時間すら幸せだった。
けれど世界はきっと広くて、彼女の世界も広がっていった。
約束の明日が来ない日が続くようになった。
昨日来なかったけど、今日来てくれた。
一昨日から来なかったけど、今日来てくれた。
先週来なかったけど、先月来なかったけど、去年来なかったけどまた来てくれた。
だんだん来ない日が多くなってしまえば嫌でもわかってしまう。
僕は彼女の一番じゃなくなったのだと。
思い知らされる。
毎日のように我が家の前の道を通るというのに彼女は我が家に来てはくれない。
ある日我が家の前の道で誰かに笑いかける彼女を見かけた。
僕じゃない誰かに楽しそうに笑いながらいろいろなことをおしゃべりする彼女。
僕は悲しくて寂しくてそれでも約束の明日を待ち続けた。
けれど約束の明日は来てはくれなかった。
また明日と笑ってくれたのに。
信じていたのに。
今でも信じているのに。
その日は突然朝から雨模様になって、夕方過ぎには本降りになってたくさんの人間を涙で濡らした。
彼女は大人になったんだと知っている。
そしてこの町からもう出ていってしまったんだと風のうわさできいた。
もう何年経っただろう。
もう人が訪れなくなって久しい。
そんな我が家に靴音がした。
その時初めて君を見つけた。
優しくて明るくて無邪気に笑う君。
君の隣にはあの時とまるで変わらない彼女の姿。
少しお化粧してる彼女は少しは背も伸びたかもしれない。服も大人らしくなったかもしれない。
髪型も何もかもあの頃とは違っているのだろうけれどあの時とまるで変わらない愛おしい彼女の姿。
彼女は僕の大好きな笑顔で優しい声で言う。
「やっぱり私はこの神社が一番すきだな」
彼女は我が家が一番好きだと笑った。
君は彼女を見上げながら彼女に問う。
「じゃあママが一番好きなのはここの神様なの?」
パパやわたしじゃないの?と不思議そうに拗ねたように君は彼女に問う。
彼女は少し困ったように笑い、曖昧に首を傾げて、深く考え、そして君を抱きしめながら答えた。
「ママの一番はあなた。でもここの神様はきっと、もっとちがう、とても特別なものなの」
パパには内緒よ?拗ねるから。と彼女はいたずらそうにお茶目に笑う。
君は少し考えてそして無邪気に笑って言った。
「ママの一番はわたし。神様は2番目なんだね!」
無邪気に笑う君を見て彼女はやはり困ったように笑う。
「ちょっとバチあたりな気もするけど何と言ったらいいものかなぁ……」
そう言って君と手を繋いで、彼女は我が家から帰ろうと歩みを進めた。
彼女がまたここに来てくれた。
約束の明日がやっと訪れてくれた。
僕は彼女の一番ではなくなったけれど僕は彼女の特別なもの。
僕は彼女の特別。
そして彼女は僕のずっと変わらない一番の人。
君は帰っていく。
靴音をならして。
けれど我が家を出る前に彼女の手を離して、振り返って僕に笑った。
「わたしの一番をあげる!わたしが一番ここの神様を好きになってあげる!」
ママには内緒よ?拗ねるから。と君はいたずらそうにお茶目に笑う。
そして彼女と手を繋ぎまた明日と小さな手を振る。
またいつか君も大人になる。
こんな約束忘れてしまうだろう。
けれど僕は信じよう。
彼女に似た優しい君の、今は本当に本物の約束を。
そして僕はそっと想う。
きっと僕も彼女も幼い君も
『きっと誰より優しく尊い2番目』
きっと誰より優しく尊い2番目 うめもも さくら @716sakura87
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