猫式白線計算機

エリー.ファー

猫式白線計算機

 猫として一つ忠告しておきたいのは、猫というのはそんなに頭が悪いというわけではない、という事である。

 冷静に考えて、人間ごときに飼われてあげているのだから、その点は、配慮するべきだろう。

 ある日、道路の白線に、爪で計算をしていた時、あることに気が付いた。その白線にいつのまにか書いていたそれは人口爆発による食料自給率問題を効率的に割り出す公式だったのである。これは多くの猫を、いや、人間たちを幸せに導くことは間違いない。

 当時の地球は、少々厄介な環境問題に見舞われており、人間が作り出す、人災的な問題に関しては後回しをせざるを得ない状況だった。地球に迫る隕石もそうであるし、地球の核にあたる部分での変動からなる地震問題など山積みだったのだ。

 猫同士の会合では、どうにかして、NASAにデータを届けるべきとの考えもあったが、今更人間に力を貸す意味があるかなど議論が続いた。

 人間が作り出し、変化させてきてしまった環境は、今になって猫たちから反感を買うには十分だったのである。

 私の意見は結局のところ、通らず、そのまま日々を過ごす中で二番目の公式を作り出してしまった。

 その公式は、人間と猫で意志の疎通を可能にする論文だった。ただし、これもまた道路の白線の所に書いてしまったので、急いで何か別の木の皮やらチラシの裏に書き写すことにした。

 その頃になると、地球には既に隕石が衝突し、地球の半分が壊滅していた。また、そこで起きてしまった地震と地球本来の問題も相まって、地球は完全な球体を損なうほどの被害を受けていた。

 多くの猫が犠牲になり、また人間も犠牲になり、環境は大きく変わった。

 人間と猫との会話を成立させることで、一番伝えたい最初の公式の有用性を示すことができる。この二番目の公式が鍵なのだ。

 しかし、である。

 猫との会話が成立することで、人間は何をするのだろうか。猫を実験体として使うことで、より精密なコメントなどを拾うことができるようになるし、利用のし甲斐があると考える様になるのではないか。猫の命を尊いと定義できるのは、当然猫であり、人間ではない。会話ができるからといって、意思の疎通が図れるというなら人間同士で戦争をするわけもない。

 この二番目の公式は間違いなく危険も秘めていた。

 猫として言わせてもらえれば、他の生き物との理解を助け合う意味を見いだせない者もいたのである。分かり合ったところで、譲歩しあわなければ余計に、亀裂は広がるばかりである。

 猫は結論を下す。

 沈黙。

 地球が滅亡するのを待つ、以上。

 はっきり言ってしまえばその後、三番目の公式がまたできたのである。

 今度は今までの問題全てを解決できるような内容だったのだ。人間を完全に救うことができると、そうすれば言葉が通じるような状況になっても譲歩の一つでも当たり前にしてもらえるだろう。そう考えられた。というか、当然の結論だった。

 誰もが感動し、そのことに拍手喝采だった。だが、同じく道路の白線に書いて、書き写そうとしたときに、人間の道路整備員が白い塗料で白線に上書きをした。直ぐに現れたローラーは静かに通り過ぎると滑らかな平面を作り出していった。

 もうすぐ、地球が滅亡する。

 縁側でお茶をすするおばあちゃんだけが、他の人間たちと違って、冷静に地球の成り行きを見つめている。

 猫たちは膝の上で丸くなると、間もなく消えてなくなる地球の上であくびをする。

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