CP2307のディアルガが欲しい

雅島貢@107kg

CP2884でもいい

「だあーーーッ、クッソ、惜しい、CP2302! あと1点! マジでふざけんなよ、はーーあもういらねーよこんなの、一応取るけど」

「なんなんスか、落ち着いてくださいよ」

 白昼の札幌駅で喚き散らす先輩を僕はほとんど押さえ込むように宥める。それでも先輩は、鼻息荒くスマホを砕かんばかりに握りしめて、怒りが抑えきれない様子だ。僕はなんとか気を逸らそうと、目に付いたものを口にする。

「あ、ホラ先輩見てくださいよ。なんか珍しいトリがいますよ」

「ああ? どうせハトかなんかだ……なんだあれ」

「あれ、適当に言っといてなんだけどマジでなんだあのトリ」

「これまでの人生で見かけたことのないフォルムをしている」

「これがトリであることだけは分かるのが、イデアがあることの何よりの証拠」

「プラトンは正しかった」


 そんなことを言っている間に謎のトリは歩き去って行き、先輩もどうやら落ち着いた。

「で、なんだったんスか?」

 僕はあまり興味がなかったが、一応尋ねる。たとえ僕との待ち合わせ場所から少し離れた場所にいた上に、僕をガン無視してスマホをいじくり回していた人間だって、先輩は先輩なので、その分は敬意を払うことにしているからだ。

「ディアルガがよぉ」

「ディアルガってなんですか?」

「そっからかよ。あのな、この世には時間がなかったんだよ、昔」

「はい?」

「そこから時間を作り出したのがディアルガ」

「はい??」

「ポケモンだよ、ポケモン」

「はあ。なるほど。ポケモンってすごいんすね。僕はポケモンと言ったら『ピカチュウげんきでちゅう』しか知らなくて」

「逆になんでそれだけ知ってんだよ」

「面白かったですよ、かわいくて」

「いや、つかこないだやったろ、街歩くやつ」

「ああ、僕たちが伝」「それ以上はダメだ」

 ダメだった。もう公開が終わっていてもダメなものはダメらしい。

「とにかくな、そのディアルガの一番強いのがCP2307なわけ」

「え、そんな時間作るようなやつがいっぱいいるんスか?」

「そうだよ、時間でき放題だよ。で、今のがCP2302なのよ。あと一箇所一点上だったら、一番のステータスだったんだよォ……ハァーーーーァ、価値がない、全く」

「いいじゃないスか、それでも二番目なんでしょ? そんな強いってか凄いやつなんだから、手に入っただけいいじゃあないスか」

「バカ、二番目に価値なんてないよ。一番目がいるんだからそっちを取りたいに決まってんだろ」

「そんなもんスかねえ」

「全く幸先悪いな。ハーァ行きたくねーなー」

「そんなこと言わないで行きましょ、今日はコンペですからね」


「……と言うわけで、この宣伝手法を用いれば、売上アップ間違いなしです!」

「ホォーン、なるほど。ただね、そのやり方は、S社でもやってるだろ。そっちが業界1位だったよな?」

「たしかにそうではございますが、えー、そのゥ……」

「まあ、二番目に価値なんてないよ。一番目がいるならそっちを取りたいに決まってるだろ。今回は残念ながら縁が無かったと言うことで」

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