主人公が死を迎え、その記憶と人格が人ならざる物にコピーされる。――と来れば対象は人型のアンドロイドか何かであってほしい所、彼は金属の球体に移植されることになる。『僕』自身は平然としていますが、読者としては、パートナーであるカスミの煩悶はいかばかりかと思わずにはいられません。
『自分は自分』という自我の目覚めが促す、なぜ金属球の姿として作られたかという自問への回答、そして迎える結末がとても切ない。最後の瞬間、トムではない彼の思いはカスミに届いたのかな、としみじみ考えてしまいました。
深い内容を扱った良作短編をありがとうございました。