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『報告書』



 赤の七区を早々に離れて、赤の六区方面に向かった。丁度赤の七区の外側に


 行動の早さを優先してたいした補給もなしに立ち去ったのが悪かったのだが、ここに来て手持ちの食料がないことが分かった。手っ取り早くこの町で調達して、あの二人組の行方を追いたい。

「なんて値段してるんだ。こりゃあ」

「鮮度も悪いみたいね」

 というかそもそも、店として成立しているレベルなのだろうか。私があまり田舎の商店を見慣れていないだけだろうか。

「ちょっと、店主これはどういうことなの?」

 店の奥からのっそりと年季の入ったおっさんが出てくる。

「誰だ? 朝からクレーマーかよ。ああ! あんたお役人かい? なあ、その服そうだろう。この町を助けに来てくれたのか。そうなのか。そうなんだろう!」

「ちょっと、落ち着いて下さい」

 いったい何があったっていうの。嫌な予感がすぐそこまで……。

「ねえ、その人ちゃんとご飯食べれてるかな? 栄養状態があまりよくないみたいだよ」

 後ろから雨璃が言う。栄養状態がよくない?

「何があったか教えてくれませんか?」

「ああ、そだな。ちょっと歩きながら話させてくれ。あれを見てもらった方がいいだろう」

 そういうと店主は何の支度もしないまま、道の向こうに歩き出す。

「この町は、一昨日まで雁木ってやつが取り仕切ってたんだ」

「それはここの町長さんですか?」

「いいや、ただのならず者だよ。だが実質ここを取り仕切ってた。町の外から物資を調達してきていたんだ。この町で生きるにはやつから一方的に物を買うしかなかったんだ」

「それは、ひどい」

 誰か反対する人はいなかったのだろうか。違法な支配なんてやってはいけない。

「それでもな、確かに町の命綱だった。他の住人には物資を調達してくるアテがなかった。だからみんな渋々したがっていたんだ。でもな、それも一昨日で最後だった。雁木のアジトがまるごとおじゃんだ。ほら、見てみな」

 通りに並んだ建物が一箇所、潰れていた。きれいに一つ分の空間がなくなっていた。粉々になったコンクリートと、真っ黒に散らばった鉄筋の残骸が転がっている。一体何があったのだろうか。何をしたら、きれいに一つだけ消し飛ばすなんてことが出来るのか。

「ここがアジトだった場所だ。雁木たちは建物ごと逝っちまっただろうなあ。なんせすごい爆発だった。それなのに周囲に被害が広がらなかったんだ。奇妙だろう」

「エルピスちゃん。魔術の跡があるよ。それもかなり濃い、隠す気がないみたい」

「そうか、魔術はこんなことできるのか。そりゃあ恐ろしいねえ」

 周囲への被害の少なさからみて、爆破というより、熱が主体だろうか。

「ねえ、いったい何人がかりなの?」

「分からない。まったく同じ反応だけど、あまり特徴自体感じられないから。まるで、特定の人じゃなくて……」

「何言ってるのよ。魔術兵器なんてこんなところにあるわけないじゃない。そんなもの運んでたらすぐにバレるわよ。店主は犯人に心当たりはあるの?」

「さあ、走り去る車を見たってやつはいるみたいだが」

「トラックでしたか?」

「いや、乗用車だと思うが」

 それだったら魔術兵器なんて積めないだろう。なら、単一の兵器じゃなくて、もっと別々のこの建物を壊すために計算された方法を……、だとしたら相当の頭脳犯か。

「なあ、続き話していいか?」

 店主が催促してくる。

「ええ、どうぞ」

「それでな、この建物にあった物資ごとなくなってたみたいで、誰も町の外にツテもないし。今日は大丈夫でも、もうすぐ明日の食料にも困る状態なんだ。な、あんたらなら手配できるだろう。なあ、頼むよ」

 目に光を宿しながら迫ってくる。どうしよう、早く任務を遂行しないといけないのに、この町の状況は切迫している。手持ちはいくらあっただろうか。

「私たちがこの町に来たのは完全な別件です。任務の都合、早く次の場所の移動しないといけません」

「おっ、おい。嘘だろ……」

「なので、紙とペンを貸してください。隣の町へ紹介状を書きます。それを持っていけば当面はどうにかなるでしょう」

「おいおい、いいんですか?」

 颯心が小声で言う。

「仕方ないでしょ」

 緊急事態なんだし、このくらいは大丈夫でしょう。きっと実家も許してくれるはずだ。

 私は紹介状と、少しばかり金銭を恵んだ。

「あぁ、あぁ、ありがとうございます」

「きちんと、みなさんで分配してくださいね」

「え、ああ、ありがとうございます。はぁ、なんと言ったらいいか」

「いえいえ、困ってる人は見過ごせないですから」

 さあ、余計に先を急がないといけなくなったな。

「よかったんですか? あんなことして?」

颯心は何もないように言った。

「良いに決まってるじゃない」

「でも、私達の食べ物は手に入ってないよ」

雨璃が言う。少し刺さった。

「うっ、まあ、どうにかなるでしょ! 先を急ぎましょうー!」

空腹を紛らわせるように、強く地面を踏んで歩いた。

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かつてキミと見上げたソラを征服したり 珠響夢色 @tamayuramusyoku

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