魔王を勇者が倒すことによって、すべてが再構築される世界に住む、住人たちのお話です。
登場するキャラクターはとても愛らしく、会話も軽妙。
文章もテンポよく進むため、作者様が設定した世界観にすんなり入っていくことができます。
ただ、冒頭より作者様は、読み手側に提示します。
「倒されるため」に存在する魔王。
「倒すため」に選ばれる勇者。
でも、選択肢は他にもあるんじゃないのかな、と。
『たったひとつの正義』『唯一の真実』というのは聞こえはいいですが、それは思考の放棄であるようにも思えます。
この物語のキャラクターたちは、誰もが答えを求めて悩み続けます。
誰かが出した答えに、「それは間違いだ」ということはとても簡単。
でも、「では何が正解なのか」を伝え合うことは、とても難しい。
二二話あたりからは、一気読み必至。
どうぞ、あなたも、キャラクターたちと一緒に、答えを探す旅に出てください。
既存の権力に従わない強者を、中世日本語では悪党と呼んだ。現代社会では単なる犯罪者だが、世界は常に秩序と混沌を繰り返す。
運命なり宿命なりに逆らう存在は常に魅力を持つ。それは、我々の大半が従わざるを得ない恐るべき力を無力化してくれそうな期待を刺激するからだろう。
本作で描かれるのはそうした『悪党』どもである。仲間内でじゃれ合い、現代的な意味での悪党を憎み、愛のなんたるかを知っている。たった一つ違うのは彼らの大半が人間ではないことだ。
具体的にどう違うかは実際に読んで頂くとして、作中での人間社会は作者が述べる通りに堕落していた。読者に不快感のある刺激を与えぬよう配慮した書き方にはなっているが、通俗ファンタジー版ソドムとゴモラである。
複雑なのは、基本的には善良で親切なはずの人々が、ある種の愚かさから平気で残虐な振る舞いをすることもあったことだろう。まことに、地獄への道は善意で舗装されており、人は業火で焼かれるまで天国に至ると確信してやまない種族といえよう。
そんな陳腐さ、馬鹿馬鹿しさに命がけで逆らった主人公達の軌跡を大いに味わえた。ゆめゆめ、なんたらソードだのどうたらの魔法だので俺様最強ストーリーを展開するお話とは一緒にするまい(そうしたお話それ自体を否定したり非難したりしているのでは一切ないので念のため)。
作者入魂の世界観を楽しもう。
魔族の町で育った子供・サターンは、勇敢で思いやりのある子。大好きな魔王ロベリアを守るために旅立ちます。
この物語に登場する魔族は決して悪者ではありません。それなのに、なぜ勇者は魔王を滅ぼすのか?
そこには、神が定めたこの世界に関するシステムが関係しています――
登場人物がみんな魅力的です。彼らは、自分の欲のために旅をしません。金も美女も名声も求めず、いつも誰かを思って行動しています。
ちりばめられた謎たち。読み進めるごとに、今後の展開が気になって仕方がなくなっていきます。
勇者はなぜ姿を現さない? フェルシとルトロスはサターンに何を隠している? その正体は? サターンの出自は?
そして、魔王と勇者が出会ったらどうなってしまうのか。
整った読みやすい文章で、シリアスの中にもくすっと笑えるシーンもあり、ファンタジーがお好きな方に広くおススメしたいです。
一番の魅力は、個性豊かな登場人物たちです。作者様が心を込めて描かれているのが伝わってきます。
現時点での私の推しは、黒い髪に紫の瞳の美しくてやさしいロベリアさん。それから、冷静で頭が良くて謎の多いルトロスです。
【最終回まで読んでの追記】
上で挙げた謎たちが明かされていく中盤以降の展開が、目が離せなくなるほどおもしろかったです!
キャラたちの抱える秘密の真実を、自分なりに想像していたのですが、それ以上に壮大で感動的な展開が待っていてくれました。
伏線回収が見事で期待以上だった上に、後半は息をもつかせぬ怒涛の展開が続き、先が気になって仕方がなかったです。
ネタバレになるので詳しくは語れませんが、ぜひ多くの方に読んで欲しい。どうしてもまずは○○話まで読んでほしい! すごいから。やめられなくなるから。
キャラたちが魅力的で思い入れが深かったので、結末に深く心を打たれました。
物語をつつむあたたかな雰囲気、誰かを大切に思う心を持った登場人物たち。
ぜひ、広く多くの方に読んでいただきたい、心のこもった素敵なファンタジーです。
自分にとって、出会えて幸せな作品です。