それでもこの冷えた手が

大福がちゃ丸。

 ソレは、突然現れた。


 巨体と異常な攻撃能力を有した、巨大生命体『怪獣』。

 この惑星に潜んでいたのか、他の惑星から飛来したのか。

『怪獣』たちは侵攻は激しく、そして、人類の抵抗はむなしく、世界各国に甚大な被害を与え続けて行った。


 だが、それも突然終わった。

 数十年も昔の話だ。


 そう、終わったはずだった。


 私は、今アパートの一室で荷物の片づけをしている。

 老人一人で暮らしなので、荷物はさほどない、使い古した旅行バックに必要な物だけ詰め込めばいいだけの話だ。


 外ではサイレンが鳴り響き、人が慌ただしく逃げていく。


 数十年姿を現さなかった『怪獣』が姿を現したからだ。

 その大きさは過去最大級、大国の核兵器ですら倒せなかった。

 複数の国を滅ぼし、海を渡り、この国にやってきたのだ。


 その『怪獣』の進行方向にこの町がある、こんな町を瓦礫に変えるのはすぐだろう。


 最後に、亡くなった妻の遺影を鞄に入れたとき、自分の皺だらけの手が目に入る。

「歳をとったモノだ……」

 誰に聞かせるでもなく、声が出る。


「もう助からないかもしれないな」

 最後まで、人として……生きよう。


 鞄を閉め、外に出る。

 空気を震わせる轟音が響き、地響きが体を揺らす。

 遥か遠くに『怪獣』の姿が見える、飛び回っているのは戦闘機だろうか? まるで牛に集っている蚊の様だ。

『怪獣』放つ怪光線で次々と落とされていく。


 人々は我先に、と逃げ出している。

 どこに逃げても、避難所に向って助かるのかも、怪しいものではあるが。


「―――さん! 無事だったんですね!」

 私に声をかけてきたのは見覚えのある顔、支援ボランティアの女性だったか。

「他の方のお宅にも伺ったんですが、もう避難なされていました、さぁ早く逃げましょう!」

 こんな、老人を心配している場合ではないだろうに。


「いや、ありがたいが、私のようなこんな年寄り何てほうっておいて逃げなさい」

 私が苦笑いしながら、そう告げたが。

「そんな事出来るわけないじゃないですか! 損得で動くのならこんな事やっていませんよ!」


 あぁ、まったく、他人を犠牲にし自分の事だけしか考えない者が居ると思えば、自分の身を犠牲にしてまで他人を救おうとする者が居る。


「私の妻も、君のような人だったよ」

 私は鞄を開ける、妻が微笑んでいる遺影が目に入る。

「私は……亡くなった妻と生きる事を選んだんだ、だが……」


 私は力を込めて手を握りしめる。

 彼女は、力を込めて握り血の気が引いた私の手を取り。

「何を言っているんですか?! 早く避難しましょう!」

 冷たくなった手を引き、動かそうとする。


「少し待っていてくれないか」

 鞄の中から、鍵の掛った小さな小箱を取り出して、それを開ける。

 中に入っていてのは、他の人の目には小型の懐中電灯……いや、マグライトか、そんなものに見えるだろう。


「鞄を預かっていてほしい、必ず帰ってくる」

 私は、皺だらけの冷たくなった手で、ソレを手に取った。

 二度と手にすることは無いと思っていたモノ。


「この世界に……君のような人が一人でもいる限り」

 手にしたカプセルを掲げ、私は高らかに叫んだ。

「私は……戦おう! 私が愛した人が眠る、この惑星ほしを守るために!」


「―――さん!!」


 瞬間、手にしたカプセルから閃光が放たれ、辺りを光の波が包む。


 光が消えた後、人々は驚き、戸惑い、そして叫んだ。

「おい! なんだ?! 何が起きたんだ!!!」

「何だ今の光は!」

「お……おい!! あれを! アレを見ろ!!」



 巨獣に壊され瓦礫となり、業火と黒煙の渦巻く中、その元凶たる巨大怪獣の前に立ち塞がる何かが現れた。


 それは、眩く輝く人型の光、天を貫く光の巨人が姿を現した。


 その姿こそ五十数年前、この惑星を襲った『怪獣』共と戦い、ある人は神の使者と言い、ある人は外宇宙からの救い主だと言った、この惑星を救った光の巨人の雄々しい姿だった。



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それでもこの冷えた手が 大福がちゃ丸。 @gatyamaru

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