9.これからのこと
かばん達は、みんなで博物館に引き返した。
「マンモス、ごめんね……結局、こんなになっちゃって」
サーバルとアライグマは、申し訳なさそうに、ぐしゃぐしゃになってしまったグライダーを、マンモスに見せた。
「いいのよ。そんなものくらい、いくらでも作り直せば。それよりも、オオウミガラスを助ける事が、あの時は大事だったんだから」
マンモスは、オオウミガラスの悲鳴を聞いた瞬間、サーバル達に、グライダーに構わず下ろすように言っていたのだった。
「ニホンオオカミも、ありがとう。私が下りてくるまでの間、よく頑張ったわね」
そう言うとマンモスは、ニホンオオカミの頭を撫でた。ニホンオオカミは、思わず尻尾を振った。
「えへへ、私は博士の助手、ですから!」
「そうね。フェネックも、ありがとう」
「いやー、初めに森で私に話しかけて、脱出の方法を教えて助けてくれた、ニホンオオカミへのお礼だよー」
フェネックがそう言うと、マンモスは少し驚いたような顔をしたかと思うと、微笑んだ。そして、オオウミガラスに歩み寄った。
「オオウミガラス」
マンモスは、オオウミガラスの名を呼んだ。彼女は、決まり悪そうに俯いている。
「あなたにプレゼントする予定だったものが、台無しになっちゃってごめんなさい。でも、私、あの日からずっと、あなたの事が忘れられなくて。いつかまた会った時の為に、ずっと、あなたの夢を叶える為の研究を続けてたの」
マンモスは、ぐしゃぐしゃになったグライダーを見つめた。
「今はあんなになっちゃったけど……、かばんちゃんの協力がなかったら、一度形にすることすらできなかったわ。ヒトってやっぱり、私達には考えつかないようなことも思いつく、すごい動物なのよ」
そう言うと、マンモスは再び、オオウミガラスの方を向いた。
「だから、私はこれからも、ヒトと、ヒトが作った物についての研究を続けていきたいの。特に、空を飛ぶ夢を、オオウミガラス。あなたと一緒に叶えたい」
「……私も、ずっと、叶えたかった」
俯いたまま黙っていたオオウミガラスが、ようやく口を開いた。
「私は、あの日からヒトが嫌いになった。この身体でいるのも嫌いになった。だから、死のうと思ったの。でも、この身体だから、本当は生きてなくても、生きられるし、この身体になる前はできなかったことも、たくさんできるようになったんだよね。だから、空を飛びたいと思った。その事を思い出して、私が本当に嫌だったのは、また死ぬ事だって気付いたの」
オオウミガラスは、ゆっくりと顔を上げて、マンモスを見つめた。
「だから、結局、この博物館の近くに戻ってきた。でも、あんな別れ方した後に、どんな顔してマンモスの所に行けばいいのか、わからなくて……」
オオウミガラスが話し続けようとするのを、マンモスが止めた。
「いいのよ、もう。どんな顔でも。こうしてあなたにまた会えた。それだけで、私は十分」
マンモスは、そう言って、オオウミガラスに微笑んだ。それを見て、オオウミガラスも、しばらく忘れていた笑顔を、マンモスに見せたのだった。
次の朝、かばん達は、博物館を発つ事になった。
「いろんな事があったけど、楽しかったね!」
サーバルが、かばんに言った。
「うん、僕も色々勉強になったよ」
「気をつけてね。もし、ヒトの居場所に辿り着いたら、その時は私にも教えてね。色々な話、聞かせて欲しいから」
「私も!面白い話、またいーっぱい聞かせてね!」
マンモスとニホンオオカミはそう言うと、かばんと固い握手をした。
「じゃあ、行きますね」
かばんはそう言って、バスを発車させようとした。その時だった。
「待って!」
オオウミガラスが、アライグマに駆け寄ってきた。
「オオウミガラス?どうしたのだ?」
「ねえ、最後に教えて欲しいんだけど、あの時あなたが言ってた、かばんが知り合いだって言う、PPPって、何のこと?」
「え?なんだ!そんなことか!PPPっていうのはな、アライさん達がいた島にいた、ペンギンのアイドル達のことなのだ!」
「ペンギン……アイドル……、じゃあ、カモメ達が言ってた事は、本当だったんだ」
「え?知ってたのか?」
「噂で聞いてたの。何処かに、ペンギン達のアイドルがいるって。ペンギンって、私と同じで飛べない鳥でしょ。だけど、立派に羽ばたいてる子達だって」
オオウミガラスは、そう言うと、海の向こうを見つめた。
「決めた。私、いつか自分の力で空を飛んで、PPPに会いに行く。この目で見てみたい」
そう言うオオウミガラスの目は、とても力強かった。それまで失われていた輝きも、宿ったかのようだった。そして、その先には、眩しい朝日の光が満ちていた。
「オオウミガラスさんなら、きっとできますよ」
かばんが、オオウミガラスに言った。
「あなたも、いいヒトに会えるといいわね」
オオウミガラスはそう言うと、彼女もまた、マンモスとニホンオオカミのようにかばんと固い握手を交わした。
それからかばんは、ゆっくりとアクセルを踏み込み、バスを発車させた。サーバルとアライグマは、博物館が見えなくなるまで、手を振り続けた。
「『空は飛べないけど、夢の翼がある』か。本当かもねー」
フェネックが、かばんに言った。
「僕も、信じてみようと思います」
かばんはそう言うと、バスを加速させた。バスは一目散に、果てしなく続く道の先へ向かって走り去って行った。
その頃、遠く離れた地で、PPPはライブ本番を控えていた。
「はーっくしょいっ!!」
突然、みんな一斉にくしゃみをしたので、マネージャーのマーゲイはビックリした。
「み、みなさんどうしたんですか?まさか、本番前に急に風邪を……!?」
「い、いや、なんか知らないけど、急に……」
「誰かがオレ達のこと噂してるのかもな」
「かばんさん達じゃないですか?遠く離れたどこかの地で、私たちの事を教えて回ってるのかも!」
「おお、そうだったらいいな!」
「よーし!目指せPPP全国ツアーよ!今日のライブは、今までより一層気合い入れていくわよ!」
「おー!!」
おしまい。
けものフレンズ ~ゆめのつばさ~ Kishi @KishiP
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