8.マンモス、危機一髪
次の日の朝、かばん達はニホンオオカミに叩き起こされた。
「みんな起きて!!できた!!できたよ!!」
眠い目をこすりながら、かばん達はニホンオオカミに連れられて外に出た。
「ついに完成したわ!後は、飛べるかどうか、試すだけ!」
マンモスは、満足そうに、出来上がったグライダーを見た。紙飛行機によく似た三角形をしていて、その部分は白と黒の布で覆われている。
「かばんちゃんの言う通りに、『えーしゃき』の動く絵を映す布を使ったの。そしたらすっごくいい感じ!きっと上手く飛べるはずよ!」
マンモスは、徹夜で作業をしたとは思えないくらいに、興奮していた。
「さて、誰が最初に飛ぶかだけど……」
マンモスは、みんなの顔を見た。でも、みんなの視線は、マンモスの方だけを見ていた。
「えっ……私?」
「他に誰がいるの?」
ニホンオオカミは、マンモスに歩み寄った。
「オオウミガラスの夢、これで叶えてあげるんでしょ。これで、オオウミガラスがいる岩場まで、飛んで、届けてあげてよ」
マンモスは、グライダーを見た。白と黒の布で作られた翼は、彼女に、オオウミガラスの姿を思い起こさせた。
かばん達は、グライダーを丘の上まで運んだ。そして、ある程度の高さまで来たところで止まった。マンモスは、グライダーを装着して、まっすぐ、岩場の方を向いた。
「いい?博士、この坂を一気に駆け下りて、勢いがついたところでジャンプするんだよ!」
ニホンオオカミが、マンモスに言った。
「わ、わかってるわ」
マンモスは、緊張していた。
「大丈夫だよ!何かあったらすぐ助けに行くから!」
サーバルが、マンモスを励ました。
「そ、そうね。よーし……!!」
マンモスは、大きく深呼吸をすると、一目散に、真正面に向かって駆け出した。下り坂で、グングンとスピードが上がっていく。すると、少しずつ、体が下から持ち上げられるような感じがした。マンモスは、その瞬間、地面を蹴った。
「やった!」
「すっごーい!!マンモス、飛んでるよ!」
マンモスは、目を固く閉じていた。が、サーバルたちの歓声が聞こえて、ゆっくりと目を開けた。さっきまで足元にあったはずの草むらが、遥か下に見える。
かばん達は、マンモスをバスで追いかけることにした。マンモスのグライダーは、順調に、浜辺の岩場に向かって飛んでいった。
まもなく、かばん達はオオウミガラスのいる岩場の近くまでやってきた。オオウミガラスは、やはり、岩場に立って、遠くを見ていた。
「おーい!オオウミガラスー!」
ニホンオオカミが、バスの後部座席から身を乗り出して、オオウミガラスを呼んだ。
「上を見て!!博士が、オオウミガラスの夢を叶えたんだ!!ほら!!」
オオウミガラスは、言われるままに、空を見上げた。遠くから、白と黒の翼のグライダーが、こちらに向かってくるのが見える。
「マンモス……?」
「オオウミガラス!また会えて良かった!!」
マンモスは、オオウミガラスにまた会えた事が嬉しくてたまらなかった。早く彼女の元に、この、彼女が夢見た空を飛ぶ為の翼を届けてやりたかった。
ところが、トラブルが待ち受けていた。
突然、風向きが変わり、海の方から強い風が、マンモスの方に吹き付けた。マンモスは、必死に方向を直そうとしたが、次の瞬間、再び強風に煽られ、グライダーが制御できなくなってしまった。
「様子が変なのだ!」
アライグマが、マンモスを見て叫んだ。マンモスを乗せたグライダーは、フラフラと左右によれながら、どんどん、浜辺から離れて行った。そして、森の中に墜落してしまった。
「大変!マンモスが森の中に!」
サーバルが叫んだ。かばんは、すぐにバスのハンドルを切って、森の方へ方向転換した。
オオウミガラスも、森の方へ駆け出した。
「待って!オオウミガラスさん!一人じゃ危ないですよ!」
かばんが、オオウミガラスを呼び止めた。
「一緒に行きましょう。みんなで探して、マンモスさんを助けないと」
オオウミガラスは、立ち止まったまま動かなかった。
「お願い、オオウミガラス。一緒に来て」
ニホンオオカミが、オオウミガラスに駆け寄った。
「博士は、オオウミガラスの為に、ずっと研究を続けてたの。それを聞いて、私も、博士とオオウミガラスの為に頑張りたいって思ったの。二人がまた、仲良く一緒にいられるように……、だから、博士からの贈り物を、受け取ってほしい。それに……私も、オオウミガラスと、友達になりたいから」
オオウミガラスは、ニホンオオカミがとても真剣である事がわかった。彼女が、マンモスのことをとても大切に思っている事もわかった。そして、昨日、嫌な態度を取ったのにも関わらず、自分と友達になりたいと言ってくれた事が、嬉しかった。
「……わかった。行こう」
オオウミガラスはそう言うと、バスに乗り込んだ。かばんは勢い良くアクセルを踏み、バスは一目散に森の中に飛び込んでいった。
「そう遠くには行ってないはずだよ、何処かの木に引っかかってると思う」
ニホンオオカミは、辺りの匂いを嗅いで、マンモスを探していた。サーバルとアライグマ、そしてフェネックも、同じようにしていた。
「あっ……止まって!」
ニホンオオカミの声に応えて、かばんはバスを止めた。ニホンオオカミは、目の前の木の上を見上げた。
「博士!?そこにいるの!?」
ニホンオオカミが、木の上に向かって叫んだ。
「ニホンオオカミ!ニホンオオカミよね!?助けてー!降りられないの!」
木の上から、声がした。間違い無く、マンモスの声だ。
「良かった!無事だった!」
「よーし、木登りなら任せて!」
サーバルは、バスから降りると、目の前の木に飛びつき、猛烈な勢いで登って行った。
「うみゃみゃみゃみゃみゃみゃー!」
サーバルが木に登ると、そこには、グライダーを装着したまま、枝に引っかかって身動きが取れなくなっているマンモスがいた。
「サーバル!助けに来てくれたのね!」
「待っててね、すぐに下ろしてあげるから!」
そう言うとサーバルは、爪でグライダーごと枝を切ろうとした。が、マンモスはそれを止めた。
「ま、待って!このグライダーは、オオウミガラスに届けなくちゃいけない大事なものなのよ!壊しちゃダメ!」
「ええー!?そんなこと言われても、どうしたらいいか……」
「うまく枝だけを外して。多少の傷や歪みはやむを得ないけど、でも、最小限にとどめるように」
「うう……そんな難しいこと言われても……」
サーバルは、木の下の方に向かって叫んだ。
「ねー!アライグマー!手伝ってよ!」
「え?どうしたのだ?」
「私一人じゃ大変そうなの!アライグマ、器用だから、こう言うの得意でしょー!」
「お、おお?ふははは!サーバルもやっとアライさんの実力に気が付いたようなのだ!任せるのだ!」
そう言うとアライグマは、張り切って木の上に登って行った。
「アライさーん、気をつけるんだよー」
フェネックが、木の上に向かって呼びかけた。その時だった。突然、フェネックが身構えた。
「どうしたんですか?」
「何か来るよ」
その正体は、すぐにわかった。森の奥から、木々の間から、小さなセルリアンの大群が、かばん達をめがけて一目散に向かってくるではないか。
「セルリアンだ!」
ニホンオオカミが叫ぶ。
「サーバル!アライグマ!早く!」
「そ、そんなこと言われても!」
「羽根が壊れたらダメなのだ!」
サーバルとアライグマは、マンモスを助け出すのに手こずっていて降りてくる事ができない。
「えーい!しょうがない!来るなら来い!」
ニホンオオカミは、向かってくるセルリアンの大群を蹴散らし始めた。フェネックも、加勢した。だが、数があまりにも多くて、二人だけでは太刀打ちできそうにない。
ニホンオオカミとフェネックは、段々、疲れてきた。でも、セルリアンは容赦なく、二人に次々と向かってくる。オオウミガラスは、その様子を見ていられなくなり、かばんに詰め寄った。
「ねえ!あなた、ヒトなんでしょ!何か武器とか持ってないの!棍棒とか、鉄砲とか!」
「そ、そんなもの持ってませんよ!……うわっ」
かばんは、自分に向かってきたセルリアンを咄嗟に避けた。次の瞬間、津波のようにセルリアンがバスの後部座席に向かって押し寄せた。
「オオウミガラスさん!」
かばんが叫ぶ。オオウミガラスは、咄嗟にバスから飛び降りて、横に退けた。だが、セルリアンもすぐに方向を変えて、一目散にオオウミガラスに迫ってくる。避けようとした拍子に、オオウミガラスは、石につまずいて転んでしまった。
「あっ……!」
セルリアンは、しめたと言わんばかりに、オオウミガラスに一斉にまとわりつき始めた。小さなセルリアンの大群が一箇所に集まり、まるで一体の大きなセルリアンのようになって、オオウミガラスを飲み込んでいく。
「い、いや……助けて……!助けてええええ!」
オオウミガラスの悲鳴が、響き渡った。次の瞬間、何かがオオウミガラスの身体を持ち上げ、ぐるんぐるんと振り回した。オオウミガラスの身体にまとわりついていたセルリアンはあっという間にバラバラに吹き飛ばされた。
「オオウミガラス!しっかり!」
オオウミガラスは、目を開けた。目の前には、マンモスの顔が見えた。
「マンモス……!」
「かばんちゃん!バスを出して!後ろ向きに全速力で走って!森から出るわよ!」
「は、はい!」
マンモスはオオウミガラスを抱えて、バスに乗り込んだ。サーバルとアライグマも、木の上から飛び降りて来て、バスの屋根の上に飛び乗った。それを確認すると、かばんは思い切りアクセルを踏み込み、全速力でバスをバックさせた。
全速力のバスには、流石にセルリアンもついてくる事ができなかった。バスはそのまま後ろ向きで勢い良く森から飛び出して、もうもうと砂煙を上げながら、浜辺に着地した。
「……ふう、なんとか脱出できたわね」
マンモスが、深くため息をついた。みんなも、それに同調した。
「大丈夫?オオウミガラス……どこも、変なところはない?」
マンモスは、森の中からずっと抱き抱えていたオオウミガラスの顔を真っ直ぐ見つめて言った。マンモスの顔は、オオウミガラスの身を心から心配している顔だった。その顔を見た瞬間、オオウミガラスの瞳からは、大粒の涙が、滝のように流れてきた。
「う……うわあああああ!!怖かった!!怖かったよー!!」
オオウミガラスは、かばんに怒鳴った時よりもさらに大きな声で泣き叫びながら、マンモスに抱きついた。
その様子を見て、かばん達は呆気にとられていた。今までのオオウミガラスからは、想像もできない姿だったからだ。
ただ一人、フェネックだけは、その姿を見て微笑んでいた。
「やっと気付いたねえ。いや、本当は最初から気付いてたのかもしれないなー」
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